第48話 復活・無双・ダイジェスト!?

 この大陸、ウィンダルフにおいて『治安の良い場所』というのはまだまだ少ない。

 土魔法の発達によって城壁の建築が容易になり、各地に城壁つきの都市国家が生まれ、それが現在多くの『王都』となっているが、当然そこには立地上、貧富の差がある。

 貧しい土地の王都は貧困化ひんこんかして他所よその王都を襲う盗賊ギルドの巣窟そうくつとなったり、はたまた豊かな水源や畑が闇ギルドに牛耳られて経済が立ち行かなくなったりと、この世の『悪』は常に形を変え、いつもどこかに存在しているのだ。


 そんな世界の片隅で、ヴェノム達が通過しているのは、地平線の見える朝焼けの草原。

 羊たちの群れがあちこちで朝露に濡れた草をむその場所も、大陸では有名な危険地帯。通称『盗賊の大平原』と呼ばれる区域だった。

 ひとたび道を見失えば延々と盗賊に襲われ、水場も帰る方角も分からないまま死を待つのみ――そんな場所で、2台の警備馬車に保護されながら通りかかるヴェノム達がどうしていたかというと、


「う〜ん、流石に馬車が重くなりませんか?」

「そうなんだよなあ、とはいえ捨てていくのももったいないしどうしようか」


 


「あ、また水筒ですよ。なんかチーズ臭いんですよねコレ」

「もっとキレイなの大量にあるから捨てていこうぜ」

「ですね」

「宝石もなるべく処理したいのだがな、いっそ宝箱に入れて道端みちばたに置いておくか」

「盗賊に回収されそうで嫌なんだよな」


 走り続ける馬車の窓から、傷んだ水筒(動物の胃袋製)や、雑巾にもならない汚れた布が捨てられていく。

 宝石も適当にランク分けされて、いくつかの宝箱に収まっていた。


「やっぱ物騒だよなあ、世の中」


 それらは全て、ここへ来るまでにヴェノム達を襲撃した盗賊たちから逆に奪ったもの。返り討ちにする盗賊の襲撃が多すぎて、逆に物資が増えすぎていたのだった。


「はぁ……まさか私の剣が王都より忙しく働くとはな」

「流石にスカーレットさんを褒めるのもネタ切れですよ」

「すまんスカーレット、何度も言うが、俺たちもすごく感謝はしてるんだよ。ただ何を言ってももう心が籠もらなくてな」

「わかる。もはや呆れることすら飽きてしまった」

「ふわあ……」


 ――ヴェノムとコロラドが回想するのは、カキョムを出てしばらくしてから会敵エンカウントした盗賊団だった。


「貴様ら、我らが王都の近くで暴れまわるとはいい度胸だ! 消し炭にしてくれる!」


 馬車の上に立ち、並走して弓や刀を構える盗賊達に【不思議で無敵で不殺の剣ソードオブワンダー】を振るい、撃滅していくスカーレット。

 敵に魔法使いがいなかったのか馬車に隠れていたのかは分からなかったが、落ち込んでいたとはいえ、一切その剣技を鈍らせること無く彼女は敵を全滅させた。


「流石です、スカーレットさん!」

「やるなあスカーレット!」

「い、いや、今のはたまたまで、私なんか……」

「そんなことないですよ、ねぇヴェノムさん!」

「ああ、最強って言われるだけあるじゃないか!」

「そう、かな……」


 この頃はヴェノム達もそんな風にスカーレットをめ称え、戦いが終われば逐一ちくいち騎士団に連絡し、盗賊を一人一人縄で縛って王都で処理してもらう段取りまでしっかりこなしていた。


「また来たぞスカーレット!」

「御者さん、速度は落とさないで!」

「くそ、数が多い……初撃で決める!」


「チッ、馬宿で補給をしたらすぐか……」

「あの馬宿にいた怪しい奴らだな!」

「尾行されてたんですか!?」


 しかしたび重なる危機を乗り越えるうち、後処理が雑にならざるをえなくなるのに反比例してだんだんとスカーレットにいつもの覇気が戻り始める。


「くそ、山越えを狙われたか……」

「迂回しますか?」

「もう間に合わん! あの程度の落石、私なら破壊できる!」

「さすがですスカーレットさん!」


「山越えが終わったら今度は橋かよ!」

「しかし前より敵が少ない! 突っ切るぞ!」


「馬宿に先回りして毒を仕込む、俺にそれがバレないと思ったのか?」


「夜襲なんて、私とスカーレットさんの炎の前では無力です!」


「感じる……感じるぞ新たな力を! 【不思議で無敵で不殺の剣ソードオブワンダー】第二形態! 名を【宵闇を照らす天星の双剣スターライトバスター!】」


 そして彼女の完全復活・剣の覚醒かくせいまでも果たした時、帝都までの道のりはまだ四分の一程度だった。


「……なぁコロラド、悪いんだが次の襲撃まで寝てて良いか?」

「ヴェノムさんも夜の見張りからの夜襲と投擲で疲れてるでしょ、かまいませんよ」

「ありがとう……」

「任せろ、ゆっくり休め」


 潮目しおめが変わったのは、交代で休みを取ることを意識できるようになった頃だろうか。


「ぐー……ヴェノムさん、それはキノコです、ウサギじゃありません……」

「おい、俺が森でやられたぞ」

「私はさっき海で魚を焼いたんだがな」


「フフフ……私が寝ていると思ったか?」

「寝てんだよなあ。刀握りしめて器用な寝言しやがって」

「ヴェノムさん、寝言と会話しちゃダメですよ」


 寝ずの番を代わりながら、日夜遅い来る盗賊を撃退するうち、ふと気づいた。


「ヴェノムさん、私、次の襲撃……私だけでどうにかできるかもです」

「お前もそう思うか? 俺も次の村に敵の一味がいる気がする……」

「さっきは私一人で片付けたからな!」


 敵が弱い。否――自分たちが、あまりにも強くなってしまったのだと。


「あ、右の方から敵ですー」

「出ようか?」

「いえ、この距離なら私がどうにかしてみますねー……あ、不意打ち成功です。リーダーっぽい人が崖から落ちました」

「じゃあスルーするか」


「なんか今回の襲撃、いつもに増してショボいなあ」

「食料目当ての近くの村の方たちみたいですね……」

「……前回と前々回で襲撃してきた連中の馬の肉、まだあったっけ?」


「あ、闇ギルドだ。旗持ってるな」

「旗って今何種類ありましたっけ」

「12種類目かな」

「ダブってません? ほら前々回の……」

「あ、違うぞ。一週間前のと同じに見えて花の刺繍ししゅうの向きが違う。今来てるのが本隊で、こっちは末端ギルドの旗だな。前々回のはただ似てるだけだ」

「めんどくさいですね」


「そろそろ私も働きたいぞ」

「スカーレットさんが出るとすぐ終わっちゃうんですよね」

「とはいえ俺の毒アイテムも節約したいんだよな……あ、そうだコロラド。今までの襲撃って録画してあるよな?」

「……なるほど?」


「おー、人気出てる人気出てる。やっぱ盗賊団を倒すのが一番ウケるな」

「この前の熱愛報道そっちのけで、誰がどれだけ盗賊団倒すか賭けてますね!」

「俺、大穴かよ……まぁアイテムと毒頼りじゃあな、仕方ないか。なぁスカーレット、やっぱその武器貸してくれよ」

「断る。二本に増やせても私のものだ」

「スカーレットさん一番人気ですね!」

「ふふふ、私は護衛だからな。当然、一番働くぞ! 悪はどんどん成敗してやる!」

たまにはわらわも参加してみたいのう」


 いつしか盗賊団の撃退はルーティンワークと化して、それでも日々の襲撃は止まない。


「お客様、この先は悪名高い『盗賊の大平原』……油断なさらず、どうかご無事で」

「ありがとう、必ずや無事に通るさ。それでこの宝石を引き取ってほしいのだが」

「ええっ!? そんな、お支払いはもうとっくに頂いております!」

「長年、危険区域の近くで苦労してくれたことへのねぎらいさ。気にしないでくれ」

「あ……ありがとうございます!」

「(盗賊団の持ってた宝石なんですけどね)」

「(馬車が重くなるだけだしな)」


 かくして、ヴェノム達はついに

 いよいよ差し掛かった盗賊の大平原とやらも、これまでの旅路できたえられたヴェノム達にしてみれば、少しうるさい程度のみちでしかない。


「……なんか、この前の集団を蹴散らしてから静かになったな」

「そうですねえ。珍しくいっぱい矢が飛んで来ましたけど」

「マサラに頼んだら全部焼き尽くしてくれたからな、なんか最近アイツの火力も上がってないか?」

「私の成長と同期してるのかもですね……」

「なあ、私の刀をさらに使い続けたら今度は三本になると思うか?」

「そしたら一本くれよ」

「嫌だ、これは私のだぞ。二本になっても私のだ」

「ちっ。正直羨ましい……」


 そしてついにカキョムを出て20日後、


「見えました、帝都です!」

「何だアレ……」

「あの旗……え? ヴェノムさんの名前が書いてありますよ!?」

「は!?」


 盗賊の大平原の盗賊団を撃滅した英雄・ヴェノム達は、


「ヴェノム様! ヴェノム様だ!」

「盗賊の大平原を平和にした英雄の凱旋だ!」

「スカーレット様ー! お顔見せてー!」


 帝都に着く前に、かつてない大歓迎で迎えられたのだった。

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