第47話 馬車の中から世界を覗けば
「うーわ、すごく燃えてますねヴェノムさん。まあその分前の動画も再生数上がってますけど」
ガラガラと高速で回る車輪の音を聞きながら、馬車にあったソファに腰掛けてヴェノムとコロラドは肩を寄せ合っていた。
「燃えてるって何が?」
「ヴェノムさんの動画ですよ、例の熱愛報道のせいでまた考察動画も増えてますし。炎上、見ますか?」
「いや……」
「とか言って、見ちゃうんですよね分かりますよ」
ヴェノムが軽く今日の新着動画をタイトルだけ流し見すると、
『元・白き
などなど、明らかにろくでもないタイトルばかりが並んでいた。
それを見ている間にもヴェノムが既に投稿した動画は再生数を増し、大容量の空の魔珠に魔力が溜まっていく。
「こんなネタで魔力が増していくのも嫌な気分だな」
「まあまあ、魔力に差はないですから。ところでスカーレットさん、どうして
言われ、同じ馬車の中のスカーレットを見れば、
「いや、気にしないでくれ。私は護衛の身だ、仲良く動画を観るなど……」
と言って、直立不動の姿勢を崩さない。
「いくら何でもずっとその体勢は辛いでしょ。お願いします、こっち来て
「うっ……」
そう言われると断れないのか、結局ヴェノム達の方にやって来た。
「……それにしても下世話なタイトルばかりだな。そんなものを見て面白いのか?」
コロラドとでヴェノムを挟むようにして、魔珠に顔を近づけるスカーレット。
「スカーレットさん、私の
「? わかった」
位置が変わって、今度はスカーレットとヴェノムでコロラドを挟む位置関係になった。
「……面白いのかって言うなら面白くはないわな」
「じゃあ、何か目当ての動画でもあるのか?」
「ああ、超☆配信者会議について説明してる動画でも無いかと思って……」
「あっ、これなんかどうですか?」
コロラドが指さしたのは、『配信者会議に行くならこれを見ろ! 今年もメインイベントを視聴者とガチ予想!』というタイトルの動画だった。
「良さそうだな、再生してみよう」
ヴェノムが指で触れれば、明るい音楽とともにお決まりのオープニングらしきものが再生された。
「わ、凄いですね」
「これが凄いのか?」
「ああ、かなり編集に慣れてないと作れない。音楽だって自作だしな。映像魔珠の使い方を知り尽くしてる感じだ」
「ふぅん……」
と説明していると、唐突に画面右からぴょこんとデフォルメされたウサミミに魔女の格好の女性キャラが飛び出す。
「うぇ〜い。うーさぴょんの超☆配信者会議予想動画だぜぇ。みんな今年も当てて行こうな〜」
声は女性の低いものだったが、ピコピコとイラストが動くだけでその編集技術の高さがわかる。コメントにもすでに『編集技術やべー、絵がめっちゃ動くやん』『どうやって作ってんだ』と、
「さてまずは説明からだあ。去年から帝都で行われてる超☆配信者会議、いわゆる超☆会議だけど、その内容は始まってからのお楽しみって言うスタイルを取ってる! 去年の人気投票イベントを当てたウチの視聴者さんには感謝だな」
踊るウサミミ魔女はくるくると表情を変えながら、画面中央の黒板を叩いた。するとそこに帝都を色分けしたイラストが現れ、効果音混じりに説明が続く。
丸い帝都が5色に分かれ、上から時計回りに赤、青、黒、黄。そして中心が白色だった。
「で、これがアタシ様が調べた今年の帝都の区分けだ。黒いところはスラム街だから気楽に行くなよ〜。まぁ明らかにヤバいから近づけばわかるけどな。ちなみに白は知ってのとおり『ドゥーワンゴルニコ城』だから簡単には入れないぞ」
「へー、帝都ってこうなってたんですね」
「凄いな、ちゃんと調べてイラストまで作って編集して……手間とか凄そうだ」
「わかりやすいな」
子供でも一目で理解できそうな分かりやすい構成に、3名はただ驚く。
「で、予想はこっからだ! まずアタシ様は、こうやって区分けしたからには一つ一つ違うイベントをやると思ってる。ここ一年でめちゃくちゃ配信者も増えたからな。ジャンル分けするって予想が
言葉とともに文字が浮かび、流れるコメントには『良いんじゃね?』『これは妥当』などがある。
「そして次は青! 実はこっちには帝都守護騎士団の本部があって、そんなに治安は悪くないんだ。博物館や図書館も近いから、ここは……『クイズエリア』だ! 雑学や専門知識の配信者はここでイベントをやると思う」
「帝都って、騎士団の本部が王宮に無いんだな」
「らしいぞ。サクラ所長も言ってた。私は行ったことはないが、すごく立派な建物らしい」
「へー」
「で、最後は予想枠だ! ここの黄色の『使い道』と、『メインイベントの予想』をみんなでやろうぜ! ってコトだ。
ちなみにさっきも言ったけど去年の無差別人気投票イベントはウチの視聴者さんが当てたし、場所もココだった。今回の動画にコメントしてくれれば集計するから、みんなバンバン予想してな〜。そんじゃちょっと短いけど、今回はこれでお別れだ。本番前にコメントは打ち切るから、みんな早めに頼むぜ。そんじゃばいば〜い」
イラストのウサミミ魔女が手を振って、エンディングらしき音楽が流れる。その音楽一つにしても仕入れや録音、編集の手間がかかっていると思うと、ヴェノムやコロラドはため息をついて感心してしまった。
「……凄いな、見れば見るほどしっかり作ってある」
「こんな配信者の方もいるんですね……ウサミミ魔女・うーさぴょんチャンネル……ですか」
「へー、普段は歌ってみた、高級ニンジン料理してみた……うわ、再生数もすごいぞ。全部ウチの十倍以上はある」
「これだけ凄い技術と手間ですもんね」
上には上がいるとは言うが、こうまで差を見せつけられるとは思わなかったヴェノム達には悔しさと言うよりも驚きが感情の大部分を占める。
帝都の地理に詳しかったあたり帝都の住人なのかもしれないが、このレベルの配信者と何らかの形で競ったりするのか? と思うとヴェノムは気が重くなった。
「ところでヴェノム、お前たちはやっぱりクイズイベントのエリアに行くのか?」
「どうなんだろうな、たぶんそうだとは思うけど……この馬車の行き先は帝都の王宮になってるんだ。そこで説明があると思う」
「そうか。じゃあ後は無事に帝都に向かうだけだな」
そう言って頭の後ろに手を組み、深くソファに身体を預けるヴェノム。
しかしすぐに何かに反応して、隣のスカーレットも表情を変えた。
「……この音って」
「ああ、俺達のじゃない馬蹄だな」
「っ」
チャキ、と音がしてスカーレットが剣に手をかける。
どうやら、まずは無事に帝都に着くのが先決のようだった。
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