第12話 気の毒だけどそれ死亡フラグなんですよ
「うーむ……」
ヴェノム達がクエストを受けたその日の夕方、仕事終わりのメガクィーは執務室の机で自分の淡い緑色の髪をくしゃりと掴み、頭を抱えていた。
それと言うのも、最近の仕事。その中身に、どうにも違和感があったのだ。
「もしかして私は、何かを間違えているのだろうか……」
最近、あまりにも多発する古株への制裁。ヤクサにしろヴェノムにしろ、今までこのギルドを支えてきたいわゆる『柱』的存在のはずだった。
しかし彼らは立て続けに失態を犯し、明らかに不満の残る処罰を下さざるを得なかった。
「やはり何度考えても納得できない……」
メガクィーとてバカではない。
彼らの不満や追放がどれだけギルドに悪影響か、理解できない彼ではなかった。しかしそれでも彼の仕事上、こうせざるを得ないのだと自分に言い聞かせる。
「私は今まで通り、規定通りの判断を……くそっ、私は悪くないはずなんだ! どうしてこうなる!?」
公的酒場で働いていたところをガンビットに拾われ、このギルドで経理の仕事をする中で、あらゆる無駄遣い、ムダ金を地道に省いたことで
近頃、特にガンビットが帝都に長期の出張に向かってから、ギルドの雰囲気がどうもおかしい。
乱暴な冒険者にも
まるでこのギルドを支えていた者たちが、自分の敵になったような……
「どうかしましたか、メガクィーさん」
「え!? ああ、リョウオさん……これは?」
そこへ現われたのは、リョウオ・キラスタと言う名の受付嬢。
無口に見えて気の利く、有能な金髪緑眼の新人だった。
「大丈夫ですか? ……コーヒーって言う、南国の豆を使った飲み物ですよ。この前買ってみたんです」
「ほぅ……おお、苦いですね。しかし目が
狼の獣人であるメガクィーにはあまり合わなかったが、眠気覚ましの効能はあるらしい。
「お疲れのようですし……最近はよその職場でも飲まれてるそうですよ」
「これはいい、導入を検討しましょう」
「メガクィーさんの判断で良いじゃないですか」
「そうもいきません、私は経理を預かっているだけ、そういうことはガンビットさんに相談してからです。事務員全員のお茶代だって安くはないのですから」
「なるほど……やっぱり、マジメなんですね」
「ありがとうございます、リョウオさん」
「いえ……」
「? まだ何か?」
カップを回収したのに、リョウオはもじもじと顔を赤らめたままメガクィーのそばを離れない。
「その……良ければ今夜、食事でもと……あ、でも、ご無理でしたら別に……」
「えっ!?」
まさに突然の衝撃だった。
基本的に異性からはつまらない男と陰口を叩かれ続けた男、メガクィーにとってみれば、まさに福音並の言葉。
「ご迷惑でしたか……?」
「い、いえとんでもない! 光栄です。すいません、少々お待ちください! さ、先に外で待っていてもらえますか?」
「はい」
急な誘いに、慌てて着替えに向かうメガクィー。
しかし内心では、真面目に働く自分を評価してくれていた女性がいたことで、心は晴れやかだった。
(ああ、真面目に働いていて本当によかった……やはりマジメが一番。気弱になって良いことなどありませんね)
それまでわだかまっていた思いなど煙のように消え去って、すっかり元気を取り戻す。が、ふとその足が止まった。
「おっと、鍵の確認を忘れるところでした……いけないいけない」
スキップしながら誰もいない執務室に戻り、文房具と書類の位置、二重鍵までも確認して、さらにまたスキップで部屋を出て、出口に向かう。
廊下では平静を保って普段通りの歩き方だったが、ふとその時、とあることに思い至った。
「やぁメガクィーさん、最近大変だねえ」
「お疲れ様です。いつもありがとうございます……何かありましたか?」
「どーも。いやーアンタもずーっと真面目だからねえ、最近すごく疲れて見えたからさ。変なのに恨みとか買っちゃダメだよ?」
「あはは、気を付けます」
清掃員に声をかけられて笑顔で返し、靴を履き替えるグラクィー。しかしその目にはもはや先ほどまでの浮かれた様子はなく、真剣な狼の獣人が一名歩いているだけだった。
そして玄関から外に出れば、そこには先ほどの女性、リョウオ・キラスタがいる……
……はずだった。
階段下に落ちていたのは、彼女のハンカチ。
「っ、キラスタさん!」
獣の嗅覚で、一瞬で彼女の行った先、路地裏を把握したメガクィー。
そしてそこに飛び込んだ瞬間、視界が揺れた。
(なっ、これは……!)
冷たい水の感触。
続いてしびれが全身に回って、倒れ伏し、動けなくなる。
(しまっ……そういう、こと……でしたか……私は……)
人気のない路地裏に、倒れたメガクィーを隠すように黒い影が集まる。
フードを被り、マントを着た彼らは
「きゃーっ! 強盗よ、誰か来て! メガクィーさんが!」
その
「なんだ、強盗!?」
「治癒魔法使いはいないか!」
「変な連中がスラムの方に逃げるぞ!」
そんな声を聞きながら、メガクィーは意識を失ったのだった。
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