第9話 幕間2・裏社会は死体と揉め事が大好き
王都のスラム街の奥、その片隅で、一つの扉がマントとローブで全身を隠した何者かにノックされた。
「黒の星の
「……蛇が運ぶ木の実が三つ」
「よし、通れ」
合言葉を言うと音もなく扉が開き、またすぐに閉まる。
外は良く晴れているが中は暗く、
そして廊下を抜けた先で別の扉を開くと、そこは会員制の酒場の二階通路。
避難経路を逆走してここへ来たその影は、昼から酒と陰謀、そして色欲に
その地下には、別の部屋。
大きな扉の前に二名の門番が立ち、顔には黒い犬のマスクを着けている。
「合言葉を」
「
「証は」
「これでいいか」
「どうぞ」
見せたのは、『白き
扉が開かれると、そこには玉座があった。
広い
「報告は」
「はい、こちらに」
差し出された紙を黒犬マスクの従者が受け取り、それを玉座に届ける。
紙を広げる音がして、すぐにくしゃりと握りつぶされ、紫色の炎で燃え上がった。
「ヴェノムの奴が配信者になっただと!? どういうことだ、貴様がギルドを追放したのではないのか!? あとは酒場の帰りに襲うなり、何とでもなる手はずだったではないか!」
「そのとおりです。ですがその後すぐに配信者として活動を始めたらしく、一人になる隙がほとんど無かったようで……」
マントの人物のくぐもった声は弱弱しく、玉座から聞こえたしわがれた声に
「くそっ、私の計画が……ダンジョンから帰ったソロの冒険者など、どうとでもなったのに! くそっ、くそっ!!」
ダン、と玉座の手すりを叩く音。
顔は見えないが、玉座の王は明らかに怒り狂っていた。
「まぁいい……で、配信の内容はどうなのだ? 察するに、自分を追放したギルドへの
「そ、それが……」
言いよどむ黒マント。
しかし黙っていたところで、玉座に座る王から怒りを買うだけだ。
そしてそれが死に直結する以上、口にするしかない。
「どうした」
「じ、自分の作成した毒薬と自宅を、死体とともに
「はぁあああああ!? あり得ん! 薬を扱う冒険者が自宅を晒した!? そんなものはブラフに決まっている!」
「わ、私も、そうは思うのですが……死体を晒している以上、おそらくは『来るなら来い』という
「くっ、どこまでも調子に乗りおって!」
さらに怒りの炎は燃え上がり、周囲の黒犬マスクの従者たちは震えあがる。
玉座からはビシリとムチを振るう音が聞こえ、どうやらそれで怒りを鎮めているらしかったがその先端はレンガを
「しかもさらには、その命知らずな度胸を褒めたたえる声まで……」
先ほど軽く覗いた酒場でさえも、裏世界の有力者たちにヴェノムの動画は好評だった。死体を見たいだけの者から話題のヴェノムの顔を見たい者、毒の作り方をメモする者から動画に込められた意味を考察したい者まで含め、短いぶつ切りの失敗動画は裏も表も巻き込んで、加速度的に再生数を増していた。
「ふざけおって……引き続き工作を続けろ! 手駒を使ってもいい、必ずヴェノムをこの玉座の前に連れてこい! 繰り返すが手段は問わん、生きてさえいれば腕も足もなくていい! ただし耳と片方の瞳は残せ! わかったな!」
「ははっ、かしこまりました!」
スラム街から消えたその人影を、追う者は誰もいなかった。
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