第10話

 姿を真似る傀儡Lv.16を召喚し、ある一団に混ぜた。その一団でみんなを取りまとめていた背が高い男を殺し、姿を真似て潜伏してもらった。すべては生き残るための戦略。

「だ、大丈夫か!?」

 馬車が倒れ、4人が泥まみれで倒れていた。討伐士の服装やワッペンはすでに捨てていたが、討伐士の武器だけは色を変えて所持していた。

「あ……とう……ばつし……?」

 灰色の髪をした男は酷く損傷していた。左手はえぐられ、右手首は折れ曲がっていた。

「チキショー…いてぇーなー…」

 黒い髪をした巨体の男は瓦礫の中から姿を現した。泥にまみれていたがこの地帯が沼地であったことからだ。

「みんなー大丈夫!?」

 女の人が呼んでいる。

「あ、はい!」

「俺達は無事だ!」

 二人は返事を返した。

「…! クロチアがいない」

「ま、まさか…! 討伐士さん! クロチアがいねぇえ!!」

 クロチア…髪が長い子供のことか。確か、倒れた仲間たちとは反対の方向へ走って逃げた子供のことか。

「待ってろ、いま探しに来る」

 そう言って自分はクロチアという子供を探しに向かった。

 草木に囲まれるようにしてクロチアはすでに捉えられていた。<傀儡:夢見の花(ぼーや・おやすみ)Lv.6>。真っ赤なバラの花びらが特徴な傀儡。自立行動はできないが、獲物をおびき寄せ眠らせることに長けている。これでクロチアを奪還し、応援を呼ばせないことに成功し、眠らせたまま仲間の元へ戻っていった。

 クロチアを無事に助けたことを伝え、仲間たちから一斉に感謝されると思った。

 だけど、クロチアは急に目が覚めたのかそれとも眠ったふりをしていたのか、シノという女の方へ走っていき、「俺、眠らされていた。気づいたら……みんな、いったいどうしたの!?」と傷らだけの姿を見て、クロチアは不安そうだった。

「討伐士さんに助けられたんのよ」

 シノが説明している中、ウシノノという少年が石を掴み振り下ろそうとしていた―――。


 ハッと目が覚めると見知らぬ天井があった。いびつな形をした木板が並べられた天井を見上げながら右へと顔を向けた。そこにはボロボロになった討伐士の剣と、弾が抜かれた討伐士の拳銃が置かれていた。

「飯の時間だぜ。おっ! 目が覚めたみたいだな」

 あの時はローブに身を包んでいたから顔をはっきりと見えなかったが獅子のような顔立ちをしていた。一言でいえばライオン。手は人間と大差はない。

「俺の顔を見て気になるか!? そりゃそーだろーな」

 カッカッカッと笑いながら小さなスプーンで汁をすくいあげ、食べさせてくれる。

「お、うまいな」

「だろ! 俺は人に食べさせることと荷物運びが得意なんだ。それ以外はまったく何もできないがな!」

 再びカッカッカッと笑った。

「はははは…」

 明るい人だなと思いながら作り笑顔で笑って見せた。

「お前さん、討伐士なんだろ? なぜこんな辺境なところに来たんだ? まあ、助かったけどな」

 この地域は討伐士でも早々来ることはできない。なぜならこの大陸は部外者をやすやすと招き入れたくはない様子。先代王と入れ替わりに現代王がこの国の支配者となったが、国民からはあまり期待されていないようで、傀儡被害が出ても多国を信用しないこの国の王は討伐士を招き入れることは先代王の時点で止まってしまっている。亡命してきた、なんて言いづらい。ここはあえて話しを逸らすか――。

「兄の件だが……」

「あー……ウシノノとクロチアが非常にショックを受けてんだ。いまはあまり触れないでほしい」

「オーガン…さんは、辛くないのでしょうか」

「……辛いさ。夢だったと何度も思いたくなるほどさ。兄貴がいつの頃から入れ替わっていたなんてわからねぇ。ただ、シノの姉さんは兄貴をよく想い、つい先週告白したばかりだったてによ、オレからこれ以上なにもいえないんだわ。ウシノノは兄貴を慕ってた。もう親同然にだ。兄貴があんたに切り殺されたとき、ウシノノはあんたを殺そうとした。もちろん、討伐士が傀儡以外を襲うわけない。真っ先に違うんだと判断した。だけどな、頭では理解していても、心と体は我がままなんだ。悪い、気分を悪くした。スープはここに置いておくぞ」

 オーガンは両目に手を置き、部屋を出て行った。その両目から涙が零れ落ちるのを見届け、この一団に入り込めたのはいいが気の毒なことをしたなと、想いながらも魔王として覚醒した今、後悔という感情はなかった。

 翌日、討伐隊たちがこの国に入り込んだという情報はオーガンからもたらされた。そのとき、朝刊と共に顔写真が載っており真っ先に魔王ではないかと疑われる羽目になる。だけど、シノとオーガンは二人で主人公を魔王ではないと否定していた。

「奴は魔王だ。この写真はどう見たってやつ本人だ。”討伐隊の上官を殺害”とある。これは紛れもない奴は犯罪者だ。俺達の仇だ!」

 ウシノノはテーブルを叩き、威嚇した。

「待て待て! アイツは俺達の仇じゃない。もし、魔王だとしたらなぜ俺達を助けた。あのまま見殺しにすることだってできたはずだ」

 オーガンは違うと否定した。

「それが魔王の作戦だ! 俺達を信じさせ、後ろから襲うつもりなんだ。だからどいてくれ! いますぐ魔王をぶっ殺してやるから!」

 主人公がいるベッドへ無理やり押し入ろうとするウシノノを止めるオーガン。そこに「止めなさい!」とクロチアを連れてシノが止めに入った。

「シノの姉さん」

「シノ……なぜ止める…奴が魔王であることは間違いないんだ」

 ウシノノはシノに睨みながら強く言った。

「わたしが……きいてくるから」

 ウシノノは舌打ちした。

「チッ! なぜみんな止めるんだ。朝刊でははっきりと奴は魔王と記載されている。奴は俺達の仇なんだぞ! 故郷も本当の家族も奪われ、今度は棲み家や家族(みんな)さえ奪おうとしているんだぞ!」

 ウシノノは酷く興奮していた。無理もない。オーガンたちは家族と故郷を先代の魔王によって奪われている。しかも傀儡たちの暴走により、彼らの棲み家は今やだれも寄り付かなくなった禁じられた島にあるという。いまも傀儡たちが暴走しているといわれているが、上官の命令状その島への立ち入りを許してはくれなかった。もし魔王じゃなかったら、彼らの心情を飲み込み、その島へ単独でも上陸ていただろう。だけど、いまは魔王であることをバレないために策略を練ることだけ考えている始末だ。

「やめて」

 黙っていたクロチアが小さく呟いた。

「討伐士は魔王でも傀儡でもないよ! あのとき、傀儡に捕まって死ぬんじゃないかと怖かった。だけど、あの人は助けてくれたんだ。だから、ぼくは信じるよ。信じている。…信じるしかないんだ」

「……チ。どいつもこいつも、よってたかってみんなで、あーでもない、こーでもないとうだうだ…もういいよ!」

 痰かを切るようにウシノノは飛び出していった。信じていた仲間たちに裏切られるかのような気持ちが彼の心をズタズタにした。ウシノノは単身で魔王を倒そうとしている様子だ。それもすべて魔王になってから相手の感情が伝わってくる。まったく嫌な感覚だ。

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