第9話
傀儡は年々減ってきている。その数は<魔王>が君臨していたころの百分の一まで減ってしまっている。いずれは絶滅するのは時間の問題だった。その件について上官からしみじみと語っていた。
「仲間が殺されているのをただ黙って見ることしかできない。魔王に命じられたのは『討伐隊の監視・管理・調整』と『傀儡の居場所の隔離・観察・調整』のふたつのみ。そのせいで、討伐隊と傀儡を引き合わせないようにスケジュールをとるのだが、傀儡は魔王の命令通りに動く。そのせいで誤算ばかりだ。傀儡は確実に減ってきている。仲間が減るのは傀儡でありながら悲しいさえ思えている」
なぜいまさらそんなことを思い出しているのだろうか。傀儡が減って人々はより安全に安心して暮らせるようになっている。それはいいことだ。このまま傀儡を減らせていけばいずれ、討伐隊もいらなくなる。…魔王になるまではそんな風に考えていた。だけど、残された者たちのことを考えると、いまさらながら上官の言葉は耳に残る。残された者たちはどうなるのか。命令を忠実に守り、そして傀儡として最後は呆気なく殺されていく。魔王となった今、自分は何を考えようとしているのだろうか。上官が生きていたら、なんて答えてくれていたのだろうか…。
赤い屋根の上で空を眺めながら一晩考えていた。討伐隊を抜け、魔王として追われる身となったいま、こうして討伐士という役職を背負ったころと比べると自由というよりも世間は冷たく生きにくいという実感が伝わってくる。
他の国へ行くにはライセンスが必要で、数々の試験をクリアし、高額なお金がないと手に入らないと聞いたときには腰を抜かすほど驚いた。討伐士の頃は上司や上官によって三流として勤めるようになれば試験をパスして簡単にライセンスを獲得することができた。それが一般だとこうもライセンスゲットするのに一年以上は必要になるとは思いもしなかった。おかげで船に潜入し積み荷に姿を隠して渡航する羽目になった。前のライセンスはA班解散をもって使えなくなるうえ、顔写真があるために魔王だってバレてしまう。まったく、なぜこんなことになってしまったのだろうか。
あの日、上官を殺されたと聞いて、真っ先に上司を疑った。だけど、上司は派遣で他の大陸へ渡っていたため証拠はなく、代わりにA班が見張っていたこともあってその罪はA班に向けられていた。しかも、最後あっていたのは主人公であったために疑う相手は一人しかいない。
「あの日以来…傀儡メヌから応答がない……やられてしまったのだろうか……」
A班解散を前にメヌからの糸が切れたかのように手が軽くなった。あの感覚は単なる傀儡を召喚したからの後遺症だと思っていたが、傀儡を操っているという感覚だったのだろう。いま、手が軽いことからメヌは想像通りにやられてしまったのだろう。
「メヌ…アイツをやれるのは一体どんな奴だ? レベル50の傀儡は一流の討伐士であっても容易には叶わないはずだ。それがやられるとは考えにくい。……いや、マスカット…か」
一人あてがあった。長年A班はリーダー不在だった人物だ。A班に配属した頃からすでにリーダーは不治の病に侵され寝たっきりだった。会ったのはせいぜい4回ほどだ。ミラとは仲が良かったといっていたから、ミラから何回か話しを聞いていたなと思い出していた。
「マスカット(リーダー)の戦力はたしか…――」
上官が気になるようなことを言っていた。
『A班のマスカット(リーダー)のことですが。彼は討伐隊において最強たる人物です。不治の病に侵されていますが、あれは十二年前に<傀儡Lv.99>と戦った際に負った傷です。死んでもおかしくはありませんでした。なにせ<先代の魔王>が死ぬ寸前に召喚した最後の傀儡だったからです。当時、A班からC班以外にD班からG班までいましたが、一流を含めて79人ほどの死者が出ました。A班も11人在中でしたがマスカットを残して全滅しています。B班とC班は後輩数名を残して全滅してました。本来なら上官である私が出なくてはならない状況まで追い込まれていました。ですが、マスカット(彼)はやり遂げたんです。私はこの男こそ最強にふさわしいと確信しました。ですが、同時に彼は長き苦しい闘病を患ってしまったのです。そうして私はマスカット(彼)と同等の力を持つ者を集めようとしました。ですが、残念ながら同じ…もしくは対等たる人物は出てくることはありませんでした。あなたを配属したのはマスカットに匹敵する力があったと思ったからそこに推薦したのです……魔王となってしまった今では後悔……もしていますがね』
傀儡Lv.99。人類の頂点を超え、神でさえも頭を下げるといわれる超人的な生物。それがLv.99という存在。傀儡のレベルは最大でも90が限度。それを超えると魔王が死ぬ。それは、二代目の魔王がすでに立証している証拠があり、それを示すように魔王がLv.91を超える傀儡が誕生したのは歴史上、3体しかいない。1体目は二代目の魔王が召喚した<機械仕掛けの城Lv.98>。根城に命と魂を吹き込むことにより誕生した生きる機械仕掛けの城。中に入れば迷路のように入り組んでおり、機械が自動で傀儡を作り放出することから全人類をかけた大戦争へと発展したという。
2体目は八代目の魔王。まだ子供だったことからすぐに発見され殺された。魔王がやりたかったことをやれなかったことから召喚されたのは<想像王Lv.91>。自分がなりたかった姿を想像して生まれた傀儡だ。自分の意識はあるようで、人間に危害を加えることはなく、長年愛されたという。壊された原因は「やることがなくなった」という単純な理由で、自ら命を絶ったという。その間、傀儡は召喚しなかったこともあり平和だったという。
3体目は先代の魔王。上官いわく、討伐隊に包囲され、処刑寸前だったところで苦しみまぎれの召喚。自分のレベルをすべて渡すことで誕生した。<病刻魔Lv.99>。時間と共に様々な病気を発症させる空気感染系の傀儡。図体はでかく像よりも十倍大きかったと聞く。空気感染のため全人類の存続をかけた戦いだったらしい。上官が率いる討伐隊により国を5つ滅んでしまったが、マスカットの存在により食い止めることができたそうだ。
「マスカット……やはり恐ろしい男だ」
立ち上がり空を見上げながら決心した。
「これから傀儡を召喚し、討伐隊を足止めしよう。おそらくマスカット(ヤツ)が今後、命の危険性がありえる。闘病生活で一日でも数分しか動けないといっていたし、その隙に倒せたらいいなー」
魔王の魂胆は果たして成功するのだろうか。
そして魔王はまだ知らなかった。マスカットが実はすでに死んでいることをまだ知らないのであった。
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