第8話
”人を真似る傀儡”。そいつは容易に他人の姿を真似、喋り方も話し方も食事の仕方も癖もそっくりそのまま真似をする。その傀儡を見分けるのは――熟練の討伐士でさえも見分けるのは難しい――。
黒いローブに身を包んだ4人の男女に牙を向けられた。それは4人が子供のころからお世話になり食事や教育といった幅広い分野に触らせてもらい、そのうえ戦い方を学んだ家族同然の兄貴をいま目の前で鋭い剣で切り裂いた。兄の面影を残しながらぐにゃぐにゃとスライムのように原型を崩し、地べたへと液状に飛び散っていった。惨状を目の当たりにして初めて兄だと信じていた人物は傀儡によって真似られた偽物だと知り4人は深い悲しみと苦しみでもがき嘔吐や涙を上げ、ときには叫び声をあげた。
名も知らない討伐士により4人は危険な状況から助けられたわけだが、兄を目の前で殺され、信頼していた兄が実は傀儡だと知った時、彼らの心情は計り知れないものだった。
『いまさら、気づいたのか?』
兄だった傀儡は最後にそう言い残していった。
白髪で灰のような肌をした少年は涙ながら討伐士を見た。兄を殺した恨み…とも言わんばかりに感謝よりも恨みが前に出た。落ちていた石を拾い、討伐士に向かって振り上げた。討伐士は身を構えるが、隣にいた大男により庇われ地べたへと転がった。
「なにするんだよ! オーガン!!」
体格は大きく、大の大人が二人分つながったほどの巨体を持っていた。黒い髪に紫色の目をしている。青紫色の肌は他の人たちと比べれば異質とも見える。
「ダメだよ、ウシノノ! この人は、俺達を救ってくれたんだぞ」
「救ったァ!? 違うだろ! コイツは兄を殺したんだ! それを救ったというのか、お前は区別もつかなくなったのか!!」
石を掴んだままオーガンの額を殴った。
「ぐうっ!」
見た目と裏腹に巨体は大きく宙を描き二メートルほど飛んだ。地面に顔を打ち込むようにして倒れる。
「あ……ご、ごめ…ん…」
ウシノノは自らの過ちに気づき、石を捨てオーガンに謝った。そこにウシノノの頬を思いっ切り叩く桃色の髪をした女が現れた。衝突に叩かれ頭が混乱した。今目の前にいるのは兄のガールフレンドのシノだった。
「止めなさい! もう喧嘩しないの」
自らのマフラーでウシノノの首を包み込む。ウシノノはマフラーを掴みながら、涙を流しながらシノの胸もとにもたれた。
ウシノノが眠るまで子守唄を聞かせる。ウシノノが眠った後、シノは立ち上がりこう言った。
「兄……いえ、傀儡を倒してくれて、感謝しています。馬鹿な弟たちが混乱したようで襲い掛かろうとしていましたが、どうかお許しください。取り乱してしまったんです。まさか……傀儡になり替わっているなんて知らなくて……」
「姉さんが謝ることはねえよ」
体をよっこいしょっと起き上がるオーガン。その巨体からして軽く二メートルは超える。
「すまねぇな<討伐士>さん。弟が…悪いことをした。あとで叱っておく。……ところで、こんな辺境な場所で、一人とは…」
「……はら、へったー……」
オーガンのセリフに割り込むようにして空腹であることを訴えその場に倒れこむ。オーガンとシノは互いを見て、呆気にとられていた。
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