後で決めますね、ごめんなさい。

淡雪

第1話そのボタンは?

 目の前にいる彼が、そっと差し出したのは、虹色の花弁が素敵なボタンだった。


 不思議な表情を浮かべた私に

「これは仙界で人気の恋ばなボタンというものだ」

と、彼は少し顔を真っ赤に染めて、説明した。


「これを押すとどうなるの?」


 私は真っ直ぐ見つめている彼に、興味本位で訊ねる。


「これを押すと、今までに経験した恋の話をしたくなるのだ」

「ふーん、そうなんだ……」


 私は気のない返事をしつつも、そのボタンをそっと受け取った。


 そして、彼の期待通りにボタンを押そうとしたが。


「やっぱり、止めておく」

「えっ?」


 “何故ナニユエ?”という彼の言葉に重ねるように

「あなたは、私の最愛シッテイル人じゃないから」

と、言い放つと同時に、そのボタンを地面に叩き付けた。 


“恋ばなボタン”と呼ばれたそのボタンは、ものの見事に粉々となり、辺り一面に残骸を撒き散らす。


「おぬし……これは、どういう仕打ちだ?」

「どういう仕打ち?それはこっちの台詞よ!」


 私は、あまりの怒りに肩を震わせている彼に、そう言い放った。


 彼の負の感情に飲み込まれまいと、キッと睨み付け、大地を踏みしめる私。


 一見気丈に見えて、その実恐怖のあまり、小さく震えていた。


「こんなところに私を閉じ込めて……」


“一体、私をどうする気?”と、いつになく大声で叫ぶ私。


 助けを求めるこの声が、あの人に早く届くようにと願いながら、無言で睨み付ける彼に

「答えて!」

と、強気で訊ねる。


「申し訳ないが、君には興味がない」

「?」

「わしが興味あるのは、おぬしの親しい友人」

「……まさか、ハナダ君?」


 私は、彼の口から答えが出るよりも早く、親友の名前を口に出した。


 何故、ハナダ君に興味があるのだろう?


 私は、ハナダ君と同じ姿をした、ニヤつく彼を、快く思わない表情を浮かべながら、そんなことを思う。


 下界ココでの彼は、ごく普通の人間として振る舞っていて、何ら悪い事はしていないはずだ。


“それなのに何故?”という疑問が、私の心の中にじわじわと広がっていく。


 目の前の彼は、困惑している私を、嘲笑うかのようなで見つめ続けていた。


 そんな不快な感情に晒されている私の脳裏に、一つの答えが浮かび上がる。


 それは、ハナダ君の体質である、不老不死に関係しているのかもしれないという答え《モノ》だった。


 そして、その勘は当たっているらしい。


縹宝ハナダタカラ……いや、太公望呂望タイコウボウリョボウは不老不死。

故に、是が非でもそやつに接触して、血液一滴でも持ち帰りたい」

「そっか、その為に夢の中に誘って、閉じ込めたんだね」

「?」


 何処からか聞こえた声に、彼は一瞬怪訝な顔をして、微動だしない私を見た。


 私は少しも発していない。


 それに今の声は中性的な声質ー若干男子寄り―だと感じていた。


「何処にいる、隠れていないで出てこい!」

「えー、そう言って捕まえる気でしょう?」


”だから、僕は行かない”と、声の主は彼の理不尽にも似た呼び掛けに、きっぱりと断る。










※暇な時に完成させます。

申し訳ありません。

令和5(2023)年5月7日22:51~5月17日19:16作成


 

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後で決めますね、ごめんなさい。 淡雪 @AwaYuKI193RY

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