第7話 お前はナニモノ?

 4時間目の終了のチャイムが鳴り、ようやく昼休みに入る。

 疲労の溜まった身体でなんとか午前中最後の授業であった体育を乗り切った。

 更衣室で着替えているとスマホにメッセージが届いていた。


『旧校舎屋上にて待つ。12時45分に来い』


「果たし状かよ…昼飯食う暇もねーし」

 けいすけは急いで着替えを済ませ、教室には戻らず、そのまま食堂へ向かった。食堂でゆっくり食べる時間がなかったので、名物スーパームーンバーガーと自動販売機でスタミナンXを買って屋上へ急ぐ。

 旧校舎は年季が入っており、現在は美術や音楽の特定の授業か文化系の部活動でしか使われていないので昼間であっても薄暗く、少し気味が悪い。

 けいすけはそもそも屋上に入れるのか疑問に思っていた。以前、矢作と黒川と3人で旧校舎の屋上に出ようとした時は確か鍵が掛かっていたはずだった。そんなことを思い出しながら薄暗い階段を登り続ける。

 旧校舎は暗いだけじゃなく、本校舎と比べて明らかに寒い、夏に授業がある時も誰しもが溶けるような顔で授業を受けている。だが、この校舎もけいすけが3年生になった頃に取り壊しが決まっている。

 最上階にたどり着き、屋上へ繋がるドアの前に来た。とりあえずドアノブに手を伸ばし回してみる。

 見事、普通にドアは開いた。

「これであいつがいたら魔法使い確定だわ」

 出て直ぐに目の前にあった街を一望出来る景色に少し疲れが飛んだ。

 体を伸ばしながら街を見渡していると後ろからドアが開く音が聞こえてすぐに振り返る。

「おっまたせー!!」

「俺の方が先ぃ!?」

「女子が男より早く着替えがおわるわけないじゃなーい」

 急いでここまで来た自分の律儀さにけいすけは肩を落とす。

「なんでここのドア開いてんだよ?」

 ひよこは得意気な顔をして腰に手を当て胸を張る。

「ここのドアいかにもカチャカチャしてたら開きそうな感じでしょ?」

「まぁ、わからなくもないけど」

「この前ピンセットでカチャカチャしてたら開いちゃいました!!」

「んなわけ!ルパンか!?」

 ひよこの鼻がめちゃくちゃ伸びているのが分かる。今後の人生で役に立つ瞬間が二度と来ることの無いだろう事なのにこれ程までに自信を持てるのも一種の才能だと感じた。もしかしたら自分よりバカなんじゃないかと。

 けいすけは先に鉄柵にもたれ掛かり、手に持っていたスーパームーンバーガーを食べ始めた。

「えっ!?それスーパームーンバーガーじゃん!!!!」

「もういいからー本題に入ってくれよー…」

「半分!」

 にんまりと見つめてくるひよこに折れて、かじっていない反対側を引っ張るように突き出した。

 ハンバーガーを綺麗に半分に分けるのは思いのほか難しく。全体の7割くらいもっていかれる。

「へへっ。ごみん」

「絶対今度お前の飯奪いに行くからな」


 ひよこはけいすけからもらったハンバーガーを食べながら話を始めだした。

「昨日のこと話したらいいんだよね?」

「当たり前だろこんなところに呼び出してハンバーガー奪ってんだから。」


「それでは…。私が初めて人が悪魔に姿を変えたのを見たのは今年の7月、それまでこんなこと全く知らなかった。昨日みたいな力が使える様になったのはその時から。突然現れた真っ白な服を着た人?に話しかけられてそこからその日の記憶とかほとんど無いんだよね」

 けいすけは腕を組みしかめっ面で少し考えだした。

「どのタイミングでその謎の力に気づいたんだよ」

ひよこは胸元にぶら下げたていたハートのペンダントを取り出し見つめ始めた。

「このペンダント。白い服の人から掛けられたのも覚えた。それからなんとなく着けたままでいて、次に悪魔になった人を見た時このペンダントが反応してるのがわかって、手にすると武器が出てきたんだ…」

話を聞いたところでけいすけにとってありえないことには変わらなかった。


「7月から毎日こんなことやってたの?」

「毎日戦ってたわけじゃないけど毎日パトロールしてるかも」

「白い服の奴はそれから会ったりした?」

「1度も見てないかなー」

「それじゃあ…」

 質問を続けようとするとひよこが慌て始めた。

「ちょちょちょ!質問ずっと続くの!?」

「いや当たり前だろ…」

 聞きたい事など山ほどあったが考えるのがめんどくさくなってきたのでこれを最後に決めた。


「ひよこ、お前は一体ナニモノなんだ」


「もちろん、日吉ようこですよ! 」

 澄んだ空から降り注ぐ陽の光に照らされた彼女の顔はより一層輝いていた。見た目だけだとさながら天使のようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る