第6話 昨日も、今日も、リアル

 目を開く事を躊躇う程の疲れを感じながらベッドから起き上がった。

 けいすけはすぐに昨日の事を思い返し始めた。人間が悪魔に姿を変えていたことや、そんな悪魔を謎の力で倒したひよこのこと。どう考えたって現実ではありえず。こんなことを考えているのがバカバカしくなって、自分に呆れる様に笑う。

「ありえねーわ。普通に夢じゃん」

 部屋から出てリビングに向かうと、いつもの様にらきが先に朝食を取っていた。

「おはYOSHIKI!」

 おじさんみたいな挨拶にらきは律儀に返す。

「グッモニモニモンタ!」

 いつも通りの朝に安堵し、鮮明に残るありえない記憶をさっさと忘れようとしていた。

 母のみちるが用意してくれていた朝食を食べ、学校に行く準備に取り掛かろうと席を立った時、らきが話しかけてくる。

「お兄ちゃんなんか昨日帰ってくるの遅かったね。夜遊びにハマっちゃった〜?」

「え?」

「お兄ちゃんが昨日帰ってきたの私が寝る少し前とかだったよ?」

 らきの何気ない一言でけいすけが忘れようとしていた昨日の事実が一つ埋まってしまった。

「あ、あぁ…15の夜なんてこんなもんだろ…」

「へぇ〜。思春期に少年から〜」

 普段なら、らきが歌い出した歌にツッコミを入れるているところだが、そんな余裕は今のけいいすけには無かった。頭の中で少しずつ遠ざけていたものがまた押し寄せて来ていた。


 学校までの道のり、大袈裟なくらい辺りを見回しながら歩いてきたがどこにも異変は無かった。自分が違う世界へ飛ばされた可能性、そんな馬鹿げたことを大まじめに疑ってみたがそんなことは無い様で、どこを見たっていつもの景色、いつもの水鏡市の姿しか映っていなかった。


 学校に着き、教室に入るとすぐにけいすけはひよこを探し始めた。窓際のひよこの席を見るといつもと同じ様にクラスメイトの女子と話しながら、ごく普通に笑いあっている。

 けいすけは席に荷物も置かず、ひよこの席に真っ先に向かう。

「話せよ。昨日のこと!」

「ん?」

 ひよこはとぼけた顔をして首を傾げる。

 周りいた女子はそれを見て冷やし始めた。

「おぉ、けいすけどうした?」

「これは新たな恋のはじまりだね〜」

 だが、けいすけはそれどころではなく。昨日起きた事について確かめる必要があったので、

 ひよこの手首を掴み、教室の外へ連れ出す。

「とぼけんなよ!昨日のあれはなんなんだったんだよ!悪魔の姿した化け物は出てくるわ!お前はとんでもねえ力使うわで!」

 ひよこは慌ててけいすけの口を塞ぎ、今度は逆にひよこに腕を引っ張られながら屋上へ繋がる階段の踊り場へ連れ出される。

「あんな人だらけのところで何言っちゃってんの!あんな話、嘘でも本当でもヤバいでしょ!!」

「そんなこと言われたって…ねぇ?俺だってもうわけわかんねーし」

「もう…スマホだってあるんだしさぁ…」

「え、でもひよこの連絡先知らねーよ?」

「え、そうだっけ…?」

 ひよこはけいすけに連絡先を教えて、昨日の話を昼休みに旧校舎の屋上でする約束をした。

 今すぐにでも、聞き出したいことがけいすけにはいくつもあったが、朝のホームルームが始まる時間に近づいてので渋々納得する。

 教室に戻ると教室内は大盛り上がりしていた。

 早速矢作と黒川がけいすけの元に寄ってくる。

「うちのクラスの伊達男が来ましたー!!」

「人の恋愛に水を差すなよ、矢作」

 2人は楽しくてたまらないのか、全く笑いを堪えられていない。

 この2人だけではない、クラスメイトみながニヤニヤとしながら、けいけすとひよこを交互に見続けている。

 こうなった理由が分からないほどけいすけも、間抜けでは無い。

 昨日は少なくとも学年で1番可愛い女子と放課後にデートをし、そして今日の朝あんなやり取りをしていたのだから、周囲の人間に2人の関係をどう想像されても文句は言えない。また、鋭い視線を感じたことで、男子からのひよこの人気は本物だと確信させられていた。

 ここで本気になって反応するとひよことの関係性に勝手に確信を持たれても困ると考えたけいすけは調子を合わせる。

「矢作、黒川、君たちも成長しなさい。青春、しようぜ?」

「うざっ!黒川!こいつどうするよ!?」

「許せない…絶対に!!」

 黒川はわざとらしく地団駄を踏む。

 それを見ていた教室内にいるクラスメイトは皆笑っていた。

 これもいつもと変わらぬ光景。教室で馬鹿をする自分達を見ていたクラスメイトに笑われる。

 やはりいつもの日常。

「はーい。今日も騒がしい朝に先生の登場よ」

 登校のチャイムが鳴り始めたところで伊瀬先生が教室に入ってきた。それに合わせてクラスメイトも自分の席に着き始める。

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