第2話 夜中の火遊び

「今何時!?」

 自分のベッドで浅い眠りについていたけすけ。何かを思い出したかの様に慌てて飛び起きた。

 頭の上に置いてあった時計を掴み時間を確認すると、既に午後11時になろうとしていた。何かやらなければならないことがあったわけではないが、どこか時間を無駄にしたような気がして少しため息をつく。

 再び眠りにつく事が簡単に出来るはずもなく、無駄にした時間を取り返すべく、夜の散歩に出かけることにした。


 簡単に素早く準備を済ませ、玄関へ向かう。一応家族に気づかれないことを気にしながら静かに玄関を閉め、家を出る。たまに夜中散歩にでかけたことがバレたところで、みちるに叱られたりする様なことは無いが、けいすけは誰にも知られずに夜中外に出ることに楽しみとほんの少しの後ろめたさを感じていたからだ。


 外へ出ると、思っていたより少し寒く、その場で立ち止まった。長袖のTシャツに短パン、そしてサンダル姿で外に出たことをけいすけはすこし後悔したが、また着替え直すのも面倒くさく感じ、歩き始めた。


 辺りを見ながら、特にあても無く歩く。

「11時なんてこんなもんか…」

 意外と近所の家に明かりが点いていることにすこし落胆した。

 だが、夜空を見上げたけいすけは、雲一つないほとんど黒に近い空に、妖しく光を灯す月を見て再び心を踊らせ始める。


 暫く歩いたところでコンビニが見えてきた。特に目的があって歩いているわけではないのでとりあえず店の中に入ることにした。


 自動ドアが開き、けいすけが店の中に入ろうとした時、反対に店の中から出ていく女の子とすれ違った。

「ん…?あ、あいつは…?」

 振り返ってみる。白みがかったショートヘアー。大きめの半袖に短パン姿、けいすけより薄着だったその女の子は、同じクラスの日吉ようこ。クラスメイトにはひよこと呼ばれている。

 けいすけはひよこに気付いたが、ひよこはキャップを被っていたけいすけに気付いた様子は無かった。

「おーい!ひよこ!?」

 被っていた帽子を脱ぎ、けいすけが呼びかける。

「ぇえ!!けいすけじゃん!!なんで時間に外出歩いてるの!?」

 驚いた様子でひよこはけいすけに近づいてきた。

「お前もだろ…何してんだよこんな時間に」

「まぁまぁまぁ…また明日ねー!」

 ひよこは何かを隠しながら、その場から急ぐように消えていった。

「マジでなんだったんだよ」

 気になってしょうがなかったが、諦めて明日聞くことにして、店の中へ入っていく。


 コンビニに入ってみたものの特にすることも無く、店内を1周して、雑誌コーナーでの立ち読みに落ち着くが足が疲れてきたのと、飽きてきたことで10分もしない内に出ることにした。


 ポケットのスマホを取り出し、時間を確認すると午前0時を回っていた。午前0時という時間を意識すると急に疲れと眠気が襲ってきた。早く家に帰ろうと、歩く速度を上げる。


 けいすけは早く家に戻ろうとしていたのにほんの少し遠回りをして堤防沿いを歩いていた。川の水が流れる音が耳に流れ込み、心落ち着く。反面、頭の中で埋もれさせようとしていたものが掘り返されてくる様な気がしたので歌って誤魔化した。

 歌いながら歩き続けていると、堤防の斜面に小さな光を見つけた。その光の元に近くなってくると段々様子が分かってきた、斜面の階段に腰をかけた人の影に、小さく飛び散る光。

 この時、けいすけは何となくしか分かっていなかったが、何となく分かっていた。ゆっくりと影と光へ近づいて行った。


「何してんの」

「花火。あんたこそ何してんの」

 30分程前にした内容と同じ会話してしまっていた。だが今度はさっきみたいな元気は感じられない。

「華の女子高生が深夜に1人で花火なんかしてたらヤンキーとか、警察とかおじさんに絡まれるぞ」

 そう言ってけいすけも斜面の階段のない場所に腰を下ろす。

「確かに変なのに絡まれたかも」

 ようやくひよこが笑顔になる。

 ひよこのとなりに置いてあった花火を勝手に取り、ひよこの花火を火種にしてあそび始めることにした。2人が話をしたりすることは高校に入学してから何度もあったが、彼女でもなければ、部活動で忙しかったけいすけは2人だけで遊んだりしたことは1度も無かった。なのに、こんな夜中にたまたま出くわして、何となくの好奇心で声をかけて、花火をしてることを考えると全く意味がわからなくて、楽しくて、笑いだした。それに釣られてとなりに居たひよこも大笑いしだす。その顔を見てけいすけは安心した。

 座ったひよこに声をかける直前、斜め後ろから見えた表情は月の明かりに照らされて、小さな顔に宝石の様に光る大きな目、美しく、辛そうで、今にも泣きそうだった。


「お前の家この辺だったの?」

「向こうの方だけど近いよ」

 そう言って、向こう岸を指さす。恐らく小中学校は隣の学区だったんだろう。意外と近いとこに住んでいたことに少し驚く。


 それからしばらく2人は花火に火を灯しながら、今を全力で楽しむかの様に笑いあった。

 そこに内容無ったけれど、間違いなくここ1ヶ月で1番笑っていた。11月の夜の寒さも忘れて。


 けいすけは再びスマホを取り出し、時間を確認する。既に午前1時を超えていた。

「もうそろそろ帰るか」

 けいすけがそう言うと、ひよこも満足気な顔で、

「うん!帰ろっか!」

 と言う。

 しかし、その満足気な顔に涙の雫を見つけて、けいすけは戸惑った。

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