リフレクション オブ ザ ムーン

Shohey

第1話 夕暮れに見つける

 世界はまだまだ知らないことだらけである。


 時田けいすけ、月望(つきのぞみ)高校1年生。

 通っている高校の授業が終わった後、けいすけはいつも放課後の教室に残ったクラスメイトとしょうもないおしゃべりをして時間を過ごす。


「なぁ、聞いてくれよ。昨日、天月女子の女の子のパンツ見ちまったよ」

 それを聞いたクラスメイト達は吹き出す様に笑い出し、その中の1人がけいすけの顔を見ながらこう言う。

「つまり、その顔のアザは」

 すかさず、けいすけは自信満々に答える。

「もちろん。蹴飛ばされた。顔面を」


 話のオチがついたところで、教室の時計を確認し、けいすけはクラスメイト達に適当に挨拶をして教室を出る。


 部活動に向かう、他の生徒達を横目に、

 今日1日をやりきったかのような爽やかな顔をして、校舎を出て、帰宅するのだ。



 11月の終わりにもなると、

 夕暮れの風は冷たく、冬の到来を感じさせられる。


 水鏡(みかがみ)市のシンボルである鏡川に架かる橋を渡っている時は少し歩くペースを落とす。

 水面に乱反射する夕暮れの日差し。そこに浮かぶ影達。河川敷で戯れる人の姿。それらを橋の上から眺めるのは心地よい。

「はぁ…」

 だが、深いため息が溢れる。

 その心地よい景色は、けいすけにとって、1ヶ月程前まであまり縁がないものだったのだ。


 うつむき加減で橋を渡り終えようとしたところで河川敷で釣竿を下げた1人の高校生の姿が偶然目に止まった。

 けいすけはその姿が気になり、欄干から身を乗り出すようにして確かめる。

「あの学ラン、たぶんうち生徒だな。ていうか、隣のクラスの三ツ谷じゃねえか」

 三ツ矢こういち。180cm近くある身長に、爽やかな顔で真面目、サッカー部に所属している。

 ほとんど話したこがなかったが、ある程度情報が入ってくるくらいには学年では知られた奴だ。

「こんな所で何釣ってんだよ…まぁ、釣れないことはないんだろうけど」

 面白半分で声でも掛けに行こうか考えてみたが、我に返ってまた家に向かって歩き出す。

「…別にいっか。仲が良いとかでもねーし」


 時刻は夕暮れというより、夜に近くなっていた。

 自転車で通学していれば片道45分もかかることはないのだが、けいすけはわざわざ時間のかかる徒歩で学校を行き来しているからだ。


 ようやく家に辿り着き、今日1日に費やしたエネルギーを感じながら玄関のドアを開ける。

「ただいま、戻り戻りましたました!」

 自分でも何を言ってるんだと呆れるが、毎日帰ってくると同じ様に意味のわからない事を言うのである。これに対して家族からの反応はほとんどない。

 玄関に腰をおろし、靴を脱いでいると、

 トトトトトトトトトトッ

 勢いよく向かってきたのは愛犬のエース。その勢いのままけいすけの背中に飛びかかり、後ろに倒れたけいすけの顔を舐め回す。

「おかえり…嬉しいけど…舐めるのはそろそろ…」

 今度はけいすけのターン。エースを捕まえてワシワシと勢い良く撫で回す。そうするとお腹を見せてくるので、ソフトに撫でてあげる。

 毎日のことである。だがけいすけはこれが楽しくて堪らない、帰ってくると玄関で必ずじゃれあっている。

 満足そうなエースの様子を確認して、リビングに入っていく。


「タダイマ…」

 このロボット風の挨拶に対し、

「オカエリナサイ…」

 しっかりと反応してくれたのは妹のらき、明るくおふざけが好きな中学1年生である。

 けいすけは反応してもらえたことが嬉しくて表情から喜びを隠しきていない。

 そうしていると、夕飯の準備をし終えた母のみちるがテーブルに料理を並べ始めた。

「おかえり。あんた何ニヤついてんのよ」

 みちるは呆れた顔でけツッコミを入れる。

 それでもけいすけの笑みは止まらない。


 椅子に座り、母の用意した夕飯を食べ終え、自分の部屋に向かう。少し落ち着くといろいろとを思い出してしまう。筋トレで汗を流し、風呂に入って、頭のモヤを取り除き、一旦寝ることにした。


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