第7話
「んで、どうだ?読んだ感想は…」
襟鹿がコーラのプルタブを引くとプシュと炭酸が解放される音が鳴る。
一口飲んでから光世の問いかけに答える。
「そうね…、面白い、普通に面白いわ」
「そ、そうか。よかった」
「普通」という言葉に若干の違和感を感じながらも光世は安堵の息を漏らした。
襟鹿は面白くないところはバッサリというタイプの人間だ。
事実、前作も担当に見せる前に襟鹿に指摘されたところがあった。
その頃二人の関係値はまだそんなに深くなかったから、光世は「なんだこいつ」と思い、変えずにそのまま提出した。
しかし、襟鹿が指摘したところがまんま担当の雛ヶひなと同じところだった。当然のごとく書き直しを命じられ、締め切りギリギリに仕上げたことがあった。
それ以来、光世は襟鹿の意見をしっかりと聞き、尊重するようになっていた。
「あんた、異世界ファンタジーも書けるのね」
「まぁ、正直この年代の学生ならロマンだからな。一度は妄想してみたくなるさ」
「設定とか内容とか、つかい古されてる感は否めないけどね」
「いやいや、人には人の妄想があるんだよ。それがみんなの妄想になっているって だけ。誰だって使い古されたくて書いてんじゃないんだよ」
「そんなもんなの?」
「イラストレーターとは感性が違うんだよ」
「ふーん」
今回、光世が作り上げた作品は異世界ファンタジー。といっても転生ではなかった。
「ダンジョンの上と下の両制覇。剣と魔法、様々な種族が織りなすダンジョンストーリー、ね」
「ダンジョンって塔的なものを上るか、地下迷宮を下るか。はたまた地上の迷路をマッピングしていくか。そのどれか一つに絞ってるものが結構と多いと思うんだよね」
「だから上も下も作って制覇しちゃおうって?無茶苦茶すぎない?」
「それがいいんだよ。両制覇した暁にもらえる称号…、ダンジョンマスターなんて厨二ごごろには結構ささると思うんだけどな」
「ごめん、わかんないし、その発言寒い」
「ほっとけ」
仮タイトルは「ダンジョンアビス ~上も下も制覇してダンジョンマスターを目指します」に決まった。
「長いタイトルってどうなの?」
「ん~、個人的には好きかな。一目で内容分かるし。WEB小説は長めのタイトルが多いからね。そこは大丈夫かな」
「短い方が分かりやすいとは思うんだけど…」
「ん~、じゃあタイトルははひなさんとも相談してみる。それで、イラストなんだけど」
今回のイラストは四枚。
あらすじ、中盤、それとクライマックス。
各パートに一枚は最低なければならないが、中盤かクライマックスはどちから二枚書いていいことになっている。
「普通に考えれば、クライマックスに二枚…よね」
「だな。でも俺が考える構図的には…」
「中盤に二枚、よね」
「よくわかったな」
襟鹿の言葉に驚く光世。
襟鹿の言う通り、クライマックスに二枚持ってくれば、オチのシーンをより明確に表現することができ、読者をぐっと引き込めることができる。
主人公の感動シーンがイラストで表現されれば読者の共感性も高くなるだろう。
だが、光世は違った。
「あんたの思考で考えるのは嫌だけど…、ま、その方がこの作品には合ってるわね」
「その方が、かっこいい…、だろ?」
光世がこの作品で一番表したかったのは、かわいい登場人物でも感動的なクライマックスでもない。
ただ、光世の妄想の中にある一番かっこいいバトルシーンだった。
「厨二丸出し。バトルシーンなんてそんなに書いたことないんだけど」
「そこは襟鹿の意見を尊重するよ。厳しいなら後ろにイラストを持ってきてもいい。だけど…」
光世はググっと襟鹿に近づく。
「やっぱこの作品の一番の魅力はバトルなんだ。鍛錬を積んだ主人公とボスの局面。力と力のぶつかり合い、マナの増大、そして覚醒…、この見どころを読者に見てもらえなくて何を見せるんだ‼」
身振り手ぶりで熱弁する光世。
その姿を見た襟鹿は、盛大なため息をついた。
それは、彼女の癖で。最近全然聞いていなかったからか光世も忘れていた。
「だから襟鹿‼描いてくれ‼俺の妄想を現実に見せつけてくれ‼」
ふっと不敵に笑う襟鹿。
答えはとっくに決まっていた。
「いいわよ、やってやるわよ」
盛大なため息は了承の証。
「だってアタシは、三森光世専属のイラストレーターなんだから‼」
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