第6話
(購買の方の自販機が近いか)
すっかり日が暮れてしまった廊下を歩きながら、光世は財布を片手に自販機を目指していた。
ふと、空いていた窓から外をのぞいてみる。
グランドには野球部やサッカー部たちが照明がつくなか練習に励んでいる。
高く綺麗な音色が聞こえてくればそれは吹奏楽部のフルートだ。
放課後は青春の象徴。
きっと高校生生活を過ごしてきた大半の人がそう思うのではないか。
部活に打ち込み、仲間と笑い泣き、時にはぶつかって…。もう二度とおとずれることのない、きらめきを、彼ら彼女らは精一杯に感じている。
(俺には…、まぶしすぎるな)
苦笑いを浮かべながら歩く光世は、その青春のまぶしさが目にささる。
(でも、これも青春か…)
サッカー部のバー当てが外れたのを見送って光世は歩き出した。
いつも使っている視聴覚準備室は3階。購買はその真下にあるとはいえ下までおりてまた上まで登らなければいけない。
それほどにコーラが飲みたいかと言われればそうではないが、なんとなく襟鹿が読んでいるあの教室にいたくなかったのだった。
階段を下りた目の間にある自販機には、先客がいた。
「ん、光世じゃん。まだ学校にいたんか」
「カズこそ部活に熱心なこって」
「うるせぇ、これが俺の恋人だよ」
「なんだよそれ、バー当てミスってたくせに」
「うぐっ、見られていたか…)
そこにいたのは仙田和人。光世とは中学からの仲でよく遊んだり試験勉強を一緒にしたりしていた。
そしてこの高校で同業者の襟鹿をのぞいて唯一、光世がラノベ作家でることを知っている人物だ。
「カズってこんなに部活に打ち込むタイプだったか?おまけみたいな感じでやっていると思ってたんだが」
「まぁ、大会も近いし、これで負けたら引退で大学受験だからな。最後の青春を謳歌中ってところかな」
「そうなんか。勝てそう?」
光世は本来の目的であるコーラのボタンを押す。
「んー、難しいかな。去年準優勝の相手だかんね」
「まじかい」
キャップを回すとプシュと炭酸が弾ける。パンパンに膨れていたペットボトルは、少しだけしぼみその分コーラの匂いが漂ってくる。
「光世は…、小説どう?書けてんの?」
カズは光世が書けなくなぅた経緯を知っていた。
デビューからラノベの発売、そして挫折。
すべてを知っていたカズは光世のことを心配していた。
「うん、さっきまで書いてて今書き終わった。今度ネット小説のルーキー杯に出すんだよ」
「そうなのか‼また小説サイトのURL送ってくれ。お前に投票するからよ」
思いのほか喜ぶカズの様子に若干戸惑いながらも、トンネルを抜けた解放感があった光世は少しうれしかった。
「ありがとう」と言おうとして少し恥ずかしさがあった光世がもじもじしているとグランドからカズを呼ぶ声がする。
「あ、呼ばれてる。じゃあ俺行くわ。頑張れよ」
「お互いな」
スパイクは少しの砂埃を上げて、運動神経の良いカズの背中はみるみるうちに遠くなり、やがてチームメイトと合流した。
(かっこいいな)
その光景を眺めながらコーラを飲む。
強い炭酸が喉を刺激する。「くぅー」という声を上げながらも何故かそれが光世には心地よかった。
「これが青春か…」
生徒が下校を始める。最終下校時間が近づいているのだ。
廊下の電気が消え始める中、光世は小走りでまだ灯りのともる視聴覚準備室へと向かった。
「私のコーラは?」
「あっ…」
「みーつーもーりー?」
「すぐ買ってきます‼」
(これが、青春なのか?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます