第3話
「ん~、アイデアはいいんだけどね~」
「襟鹿にも同じようなことを言われました…」
仮三年生から正式な高校三年生となる始業式の前日。
光世は所属するレーベルの担当である雛ヶひなとリモートで打ち合わせをしていた。
レーベルとは、簡単に言えばライトノベルや小説を発行するもととなるところだ。ライトノベル界では○○文庫という言葉で知られることが多い。
光世は、FF(フィーチャーファクトリー)文庫に所属している。
「あの、結構練ったつもりなんですけどそんなにピンときませんか?」
「ん~、そんなことはないんだけどね~」
雛ヶひなは見た目から見ても分かる通り比較的若い。
黒スーツに黒髪ショートカット、黒縁眼鏡と新入社員と見間違われるほど真面目な見た目だが、ラノベを見る目は一流で数々のヒット作を世に送り出してきた。
光世は雛さんと呼んでいる。
「なんかこれじゃない感があるのよね…。自分の強みから逃げている…、というか」
「そ、それは…」
「三森光世の作品だけど…、そうじゃないというか…」
「うぅ…」
光世のプロットには数々のジャンル、異世界や現代のファンタジー、サスペンス、ホラーなどなど様々あり、その世界観、詳細設定、人物像が事細かに書かれていた。
ただひとつ、あるジャンルをのぞいて…。
(多分みみちゃんも、このことを思ってを言ってるんだろうし)
「とりあえず、このプロットは残しておいて。また今後使えるかもだし」
「いや、結構振り絞って書いたのでこの中か書籍化に向けて動きたいんですけど…」
「ん~。そうねぇ…」
それは雛ヶもそう思っていた。打ち切られてからの短期間でこの量のプロットをこんなに細かく書ける高校生なんてそんなにいるもんじゃないと感心していたほどだ。
それに、他のジャンルを書くことも光世の技術の幅を広げられると思っていたのも事実だった。
「分かったわ。じゃあこれに出してみようか」
そう言って雛ヶが差し出したのは一枚の用紙。
「Ffweb小説杯?」
FF文庫はweb小説サイト「Kaite」と連携しており、様々な企画を掲載している。
今回はその中でもFF三大企画「Ffweb小説杯」にでることを雛ヶは進めたのだ。
「そう、まずプロットの中から企画に出すものを精査する。そして一つに決めてブラッシュアップしたもので勝負しましょう」
「でも、一応僕って書籍化したプロですよね?大丈夫なんですか?」
「えぇ、光世くんが出るのはこれなの」
そういって雛ヶは用紙の左下側に明記してあるところを指さした。
「ルーキー杯…、ですか…」
「そう。これに出てもらいます」
「出てもらいますってもう決まってるじゃないですか、なんなら名前乗ってるし‼」
「あらほんと」
「あらほんとじゃないですよ‼」
そこには三森光世という名前が載っていた。
ルーキー杯。デビュー後三年未満の若手作家たちが競う企画だ。
若手とはいえプロ作家たちがしのぎを削るとあって毎年毎年盛り上がっている企画だった。
「ごめんねぇ~、でもでないわけないでしょう?」
「でます‼でますよ‼こんなチャンス二度とない‼」
「そう言うと思ったわ‼頑張りましょう、光世くん‼」
「はい‼」
「それとみみちゃんにも連絡お願いね!」
「はい!…、はっ?」
その名前を呼ばれて光世の時が一瞬止まる。
「なんで、襟鹿も?」
そんな光世に雛ヶはニコニコ押した顔で伝えた。
「イラストがいるからよ!それ込みの企画なの、ルーキー杯は!」
「えぇ…、まじすか…」
光世が企画に参加するとなって上機嫌な雛ヶ。対照的に総ボツをうけたプロット達から襟鹿にイラストを描いてもらうことを伝えなければならなくなった光世。
「イラスト、描いてくれるかな…?」
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