第2話

「書きたいけどアイデアが浮かばないんだよ、かんべんしてくれよ‼」


「脳汁の一滴まで振り絞ってアイデア出すのが作家でしょうが‼鼻血たれながしてでも書きなさいよ‼あんたプロでしょうが‼」


「プロでも筆がノらない時くらいあるだろうが‼一流作家様たちと俺を比べるなこのクソガキツインテール‼」


「何が筆がノらなくて~よ‼もう三か月もノってないじゃないの。いい加減に書かないと担当にいいつけるわよこのダサダサ赤眼鏡‼」


「ぐぐぐっ!」


「なによ、何とか言ってみなさいよ‼」


これがいつもの二人の光景。光世と襟鹿の二人はここ数か月、ずっとこの状況なのだ。


たしかにおおもとをただせば光世が明らかに悪い。担当からも早く次を書いて出版するようにと言われていた。


だが、どうにも筆がノらなかった。あの打ち切りをズルズルと引きずって今に至る。


そうなるとイラストレーターの襟鹿にも影響がくる。

光世専属のイラストレーターとなった彼女は光世の作品でないと書けない、正確には書かないと自分で決めているのだ。


まさに一蓮托生。


――俺のラノベ人生はこいつとともにある。


「みーつーもーりー?」

「分かった、分かったから、ちょっと待って」


自分の通学かばんをガサガサと探り、中から「ネタ帳」と書かれたファイルを取り出す。


「なんだ、あるじゃない、速く見せなさいよ‼」

「あっ‼」


光世からぶんどったファイルに閉じられていたのはプロット。

プロットとは、ライトノベルに限らず物語を書く際に、その物語の世界観や登場人物の設定、物語のスタートからゴールまでの情報など簡単にまとめたものである。


光世のファイルにはそのプロットが閉じられていた。

それも何十枚とあるものだった。それがファイリングされているものだから、そのファイルも分厚かった。


「まさに鈍器」

「叩かないでよ」

「それフリ?」

「いやマジで‼」


そう言い合いながら、襟鹿はページをめくる。それも先ほどとは違って真剣な表情で。


この中から、作品が採用されれば襟鹿がそのキャラクターを描かなければいけない。


それが彼女の仕事。

光世が書いたキャラクターや世界観を文字だけから読み取り、絵として表現する。

そう考えると彼女の表情も仕事モードに入るのもうなずける。

どれくらいの時間がたっただろうか。「ふぅ」といって襟鹿は顔を上げた。


「どう…、だった?」


閉じたファイル。ネタ帳とかかれた表紙の文字を見つめた彼女はなぜか、少しだけ苦しそうに光世に言った。


「いいアイデアはゴロゴロある。さすが高校生ラノベ作家ね」

「ほんと⁈なら…、」

「でもなんか…、響かない」

「それって、どういう」


スッと光世の前に立ち上がった襟鹿は、そのファイルを返した。

自分の通学かばんを持った襟鹿は視聴覚準備室のドアを開けた去り際に…、


「ごめん、この中にあるものに、私は絵を生み出すことができない」


そう言って襟鹿は去ってしまった。

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