君とともに歩む俺のラノベ人生

ハラken

第一章 プロローグ

第1話

「できたの?」


 あまり高くもない身長から見下ろしてくるその目つきには鋭さがある。

 加えてオーラもなんか「ゴゴゴ」とか出て来そうな感じを帯びていた。


「でーきーたーのー?」

 

誰もいない視聴覚準備室。

 

 目の前にいるのは学校の中で人気のある少女、襟鹿みみだ。


 現在高校三年生。詳しく言えば、あと数日で新年度の始業式なので仮三年生だ。

 紺色を基調とした制服と学年別でつける黄色のリボンは、彼女にとてもよく似合っている。少し低めの位置で止めた金髪のツインテールが特徴的な彼女は、アイドル顔負けの笑顔に加えて成績優秀で常に学年で注目を集めていた。


 しかし彼女はそんな笑顔とは裏腹な表情を向けている。

 正確に言うとそんな表情を向けるのはこの学校では彼くらいだろう。


 「エイプリルフールとしては、あまり笑えないネタなんだけど」

 「いや~、ははっ…」

 「なにヘラヘラ笑ってんのよ‼」


 襟鹿は机を思い切りたたく。ドンっという音が二人しかいない視聴覚準備室に鳴り響いた。


 ちなみに襟鹿のまえでヘラヘラと笑っているのは男子高校生。


 高校生ラノベ作家・三森光世。


 ほそぼそとネット小説に投稿し続けていたのがある編集の目に留まり、そこから書籍化。まさかまさかの夢のような街道を通っていた光世の作家人生は一転。その後、同じようジャンルの作品に踏み倒されて二巻で打ち切られるという結果に終わった。


 高校二年生にして天国と地獄を味わったラノベ作家である。

 現在は襟鹿と同じ仮三年生だ。


 「ごめんなさい襟鹿さん、あと三日くらいでできると思う」

 「ふっざけんじゃないわよ‼この前会った時も、あと三日でって言ったじゃない‼いい加減書く努力をしなさいよ‼」

 「いや俺は書くじゃなくてパソコンだから打つ…、」

 「うるさぁぁぁぁい‼」


 そう言って襟鹿は爪で顔面をひっかくひっかく。


 しかし、彼女がここまで怒るのには理由があった。


 「襟鹿さん、やり方が古いよ‼今はもっと奇抜にいかなきゃ」

 「みーつーもーりー?」


――あー、これ殴られるやつだ。


「あんたが書かなきゃ、私に仕事が回ってこないでしょ‼」


そう…、襟鹿みみは、三森光世専属の高校生イラストレーターだった。

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