第34話
「ユキ、これ取ってくれまじで早く」
「うーん……どうしよう? このままのほうがいいかな、面白いし」
「は? ふざけんなバカ」
さすがに俺も焦る。これ以上はシャレにならない。
俺を見下ろしていたユキの顔色が曇った。
「あのさ、前から思ってたんだけど、ナイトくん口が悪いよね。いちおうわたし、年上なの。わかる?」
「それは私も思ってた。なんでずっとタメ口なんだろうって。しかもなんか偉そうだし」
なぜかここでミキも乗っかってくる。
ベッドに座ったままの俺の前に、二人が横並びに立ちふさがる。圧をかけてくる。
「ちょっと矯正しようか」
「そうだね」
そしてなぜか結託。いやおかしい。完全に流れがおかしい。
「なにが矯正だよ、いいから外せって」
「ふーん? どういう状況かわかってる?」
ユキは負けん気の強そうな目で俺を見返すと、すぐ隣に腰掛けた。
首筋に手を伸ばしてきて、触れるか触れないかの位置で指先を上下する。
「さわさわ~、さわさわ~」
「いや全然。それが何?」
実は少し効いていたがポーカーフェイスで対応する。
むっとしたユキの顔と見合っていると、反対側にミキが腰を下ろした。気配が近づいてくる。
「ふー」
「生意気な口きいてすいませんでした」
耳に息を吹き当てられ、すぐさまギブアップする。
というか逆らっても何もいいことがないと冷静に判断した。
実はかなりよくない状況だ。仮に強引にこの場を逃げ出したとしても、こんな後ろ手で手錠はめてるやつが外を歩いていたら変質者扱いされる。ここでユキかミキに外してもらうしかないのだ。機嫌を損ねるとまずい。
「ふー」
「ち、ちょっと待った! だからすいませんでしたって!」
効いていると判断されたのか、ユキも同じように息で耳をくすぐってくる。
負けじとミキも攻撃を継続。結果両サイドから両耳を攻められるはめに。背筋がぞくぞくとして、鳥肌が止まらない。
「おもしろーい、めっちゃびくびくしてる」
「くすくす、ねえこれさ、まんまふたごAMSRだね、うふふふ」
「ミキはツボってるし。なんかおかしい?」
「えーユキ知らないの?」
「はいはいオタクオタク」
なんだか知らないが人の耳元で息を吹きかけつつしゃべるのはやめてほしい。
たまらず体をよじると、逃げないよう抱きつかれた。二の腕に伝わる柔らかな圧×2。そして意外にでかい。これも×2。
「ほらナイトくんいい子だからお姉さんの言うこと聞きましょうね~?」
ユキが頭を撫でながらささやいてくる。ちょいちょい出るお姉さんアピール。
「偉そうだったのに情けないですねぇ? ん? 耳舐めてほしいの?」
ミキがこれでもかというほどに口元を近づけてささやいてくる。変態耳舐め姫に改名したほうがいいのでは。
「ていうかなんでこんなことになってんだよ! おかしいだろこれ!」
ふたりとも変なスイッチが入ってしまっているのか、攻め手がゆるまる気配がない。なぜかお互い張り合っているようだった。しかし意味がわからない。どうしたらゴールなのか正解が見えない。
「あーちょっと暑くなってきた」
ユキは乱暴に上着を脱ぎ捨てた。薄いシャツ一枚になる。
体が一度離れたところで、すかさず差し込む。
「お願いします外してくださいユキさん」
「ふ~ん? 外してほしいなら、なにか言うことあるよねえ?」
「ユキは超かわいい。実を言うと昨日ユキで抜いた」
ユキは俺ではなくミキに向かってにんまりと勝ち誇ったような笑みを向ける。今のでよかったのか。
対するミキはあくまで冷静に、
「ていうかユキ、鍵どこにあるか知ってるの?」
「え? 鍵?」
「やっぱミキだよな。さっきのキスもヤバかったし」
俺はすぐさまミキを振り向いて言う。
よく考えればそうだ、外すも何も鍵はきっとミキが持っている。
「ん? 今なんて?」
ユキが肩を掴んできた。ぎりぎりと指が食い込んでいく。
「い、いや、同じぐらい! 同じぐらいすごい! やばい!」
「同じぐらいって何? じゃあ今どっちがいいか決めて?」
言うなりユキが唇を押し付けてくる。
手慣れた感を見せつけたいのか、これまで以上に荒々しい。
「あーあ、そんな乱暴にしてヘタクソ。ちょっとかして」
ユキを押しのけ、ミキが身を乗り出してくる。しかしその途中でミキはぱっと片手を浮かせた。なにかに手がぶつかったらしい。下の方へと視線を落とす。
「ねえ、これって……なってるよね?」
「うん、なってる。絶対」
二人がヒソヒソと耳打ちを始める。
ちなみに俺にも聞こえている。聞こえたところでどうしようもない。
「私、ちょっと触ってみたい」
「あ、わたしも。でも大丈夫かな? 少し怖いかも」
「じゃいっしょにいく? いっせーので」
急に仲良し。強敵を前に二人力を合わせようとしている。
せーの、で触れてきた。変な沈黙になる。つんつんからさわさわ、べたべた、と大胆になっていく。布が擦れる音がかすかに聞こえてくる。
「チャックおろしてみる?」
「えっ、それは……私、まだ心の準備が……」
「そしたら電気消そっか」
よからぬ会話が聞こえてくる。待ったをかけようにも、俺の判断力は限界まで下がっていた。こうなるともう猿以下。
パチリと音がして、電気が消えた。視界が再び薄闇に包まれる。
目の前で黒い輪郭が動いた。匂いがして、息遣いが近づく。もはやどちらのものかわからない柔らかな感触が、俺の唇を覆った。
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