第23話 チュートリアル4

…………


 えっ?


 それはまさに圧倒的だった。


 草原と木々が被い茂る僅かな空間に隠された馬車。


 馬車の周囲には結界が張ってあるのが見えた。


 隠密機能が付いた高価な結界で覆われて安心していたのは確かだが。


 馬車の周囲に残っていた盗賊一派は十二人、馬車の見張りに二人の計十四人。


 いずれも顔や身体に傷を持つ強面集団、体格も全員プロレスラーや相撲レスラーと比べても遜色ないほど。


 手元や腰には手斧や剣なども見える。


 

 そんな連中をたった一匹、十センチほどのクマクマが蹂躙。


 まず見張りのいる馬車に身を潜めながら進み。


 背後から首元をトンッーーって。


 よくある気を失わせるアレ、どうも眷属化した時僕の記憶も一部読み取ったらしい。


 んでーーやったみたいだなんけどクマクマの腕力が強すぎたのか。


 首が折れて即死。


 それに気づいたもう一人も、すかさず目の前に飛び込み左フックで顎先をかすめ脳を揺らしダウン。


 --の予定が、やはり強すぎて首が一周で即死。


 クマクマは首をかしげ、手をくるくるさせ力加減の調整。


 うんうん可愛いよ、そんな仕草はね。


 まぁ、馬車の外だったので、捕らえられた人達には見られなかったから問題ない……としよう。


 どうせ彼らは人間の屑だし生きる資格はない。


 一応、これが合法な奴隷回収なら僕は我慢する。


 イラつくけど、この世界の法……があるかは知らないけど、あるなら従うと思う……多分。


 残りの十二人は真っ向からではなく、素早い動きで背後から首を欠き切っていた。


 ミコトちゃんなんて最初から高みの見物、クマクマだけに向かわせるみたいだった。


 当初の予定では僕は馬車の見張りを引き付ける釣り餌だったんだけど。


 馬車の見張りが、攫ってきた内の若い女性に手を出す相談してたのを聞いたクマクマが……


 何を言うまもなく飛び出していた。


 まぁ、結果オーライ?



「ふん、どうせやつらは全員消し去るんじゃから今殺そうが同じじゃ」


 ミコトちゃんの殺意が高い。


 さっきの連中もミコトちゃんは、そこらに生えてあった十メートルを超える大木を引き抜き。


 まるで虫でもつぶすように叩きつけ処分していた。


 なんか色々な液体を垂れ流しながら命乞いしてたけど。


 僕としても、ミコトちゃんに危害を加えようとしてた連中なんて、死んで当然だとわかるようになった。


 う~~ん、前世もこんな気持ちあったような。



 周囲のゴミ掃除も終わり馬車へ向かう。


 攫われていた人達は皆獣人だった。


 それも全員猫耳の女性と子供!!


 年齢は五歳ほどの男子三人、女子四人。


 十四~五歳くらいの可愛い女の子一人。


 二十は超えていると思える、美しい成人済みの若い女性二人。


 とりあえず確認したところ。彼女達の状態は先日攫われたばかりなので問題なし。


 まだ乱暴はされていない、まずは安心。


 ーーーーで、問題はここから一番近い拠点に向かいたいんだけど。


 

 彼女達はどうするか。


 連れて行く…………論外。

 

 村に返す…………一番良いかと思うが、向かうのに数日ここに戻るまで同じ日数。


 さらに拠点までの時間がかかる。


 さらに言えば村の防衛力は貧弱で、また村を襲われ攫われるのが心配。




 どうするか、この彼女達や村も心配だけど、この間にも攫われるかもしれない人々がいると思うと、村に送り届け防衛力上げるようにするのが正解。


 だけど、拠点地に連れ去られた人々が奴隷商によって回収され、売られると考えると……


 拠点のこと知らなければ気にならなかったんだけど、知った今だと。



「なんら問題はない、拠点を潰す間村人達を守れれば良いだけじゃ」


「ミコトちゃん、そんなこと出来るの?」


「当然じゃ、ワシを誰じゃと思っておる能力は下がっておるが最強の龍じゃぞ」


 そうか、そういえば負けたことはない最強龍って言ってたような。


 いや、でもミコトちゃんが村の守りに就くとして、拠点には僕とクマクマ。



 クマクマがいくら強くなったとは言え、拠点には百人近い屈強な盗賊連中。


 攻撃力皆無の僕に出来ること。


 単純に誘い出す餌くらいにしか、ーーーしかし釣れても数人。


 しかもすぐ捕まるのは間違いない。


 クマクマと釣り出し&デストロイを繰り返すのも時間もかかるし発見させる可能性大。




「よしいくのじゃ」




 へっ?




 僕が色々考えている間にミコトちゃんは眷属の竜を呼び出していた。


 どこから?


 


 


 眷属竜はミコトちゃんとは違うタイプの方だった。


 全長五メートルの小型で赤い身体。


 二本足で手が短い羽根なしの火竜、一般的なドラゴンだった。


 しかも声はまさにイケメンボイス。


 ほう、人間の姿にもなれる。


 竜ではなく、竜人ですか。


 戦力は問題ない、人間百人程度ならブレス一発で消滅ですか、そうですか。


 頼もしい。

 

 任せますよ。



 これなら、なんの憂いもなく救出&拠点壊滅に着手できます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る