第19話 地上の魔物
空に浮かぶ雲の上に建つ屋敷を出発した僕達。
ミコトちゃんの背に乗り。
少しばかりの空の旅を終えると、地上へと降り立った。
下降している最中、丁度良いスペースを見つけていたのだ。
出発して最初はちょっと寒かったがすぐに治まった。
彼女の姿はすでにいつもの和服姿へと変わっていた。
残念ながら変身の最中裸に……なんてお約束は起きてはいない。
忍者かな? 女だからくの一だっけ? それとも魔法少女なのか。
あらためて見るミコトちゃんはとても美しいと感じた。
艶のある長い黒髪、見た目十代後半、いや十六か十七くらいかな。
切れ長い目ではあるが美少女だ。
記憶が確かなら、第一級絶滅危惧種に国家認定されているはずだ。
まさに理想、完璧なヤマトナデシコその姿だった。
しかし似合ってはいるのだが、この深い森で和服なんて動きづらい……とは、間違っても口に出さない。
見た目はお淑やかなヤマトナデシコでも物理特化のミコトちゃんなのである。
取り扱い注意なのだ。
……、美しい彼女に対し僕はといえば。
身だしなみに関して何もしていない、理由してはまったく興味を持てないから。
他人に対しては綺麗だとか感じるけど、いざ自分自身のこととなると駄目。
髪は帽子に隠れてはまともに見えるが、実際は伸びっぱなしなのでかなり長い。
面倒なので手入れなどは皆無なのだ。
お手入れ何それ?
そんなのしてる時間あれば自由(仕事)を満喫するよ。
―――と、以前彼女に話したあとの記憶がない。
つまり、お風呂上がりタオルで拭いて自然に任せているナチュラル状態、フリースタイルのボサボサ。
一応彼女に毎朝強制的に寝癖だけは直されてはいますが。
コーディネーターではないのですよ僕は。ナチュラル派なのです。
なので、二人が並べば百人が百人、お姫様と下男だというと思う。
まず、吊り合わない。
こんな僕に付き合ってくれるなんて、彼女は女神なのではと本気で思う。
一時間ほど歩いただろうか?
見上げるほどの木々が茂る薄暗い森を抜けた。
「なんで最初からここに降りなかったの?」
「そんなのつまらんじゃろう、冒険の旅といえば幾多の困難を超え、苦労を分かち合い…………」
ミコトちゃんの熱弁は三十分ほど続いた。
まぁ、ミコトちゃん曰く。
いきなり目的地にでは風情が無い。
まずはチュートリアルだと。
「……まぁ、ミコトちゃんがそうだと言うなら、それでいいよ」
「…………」
そういうことにしておこう、こればかりは僕が言うことではない。
今現在の彼女かなり無理をしてる。
うまく隠してるようだけどなんとなく確証をもてる。
彼女の好きな地球のへ移動も出来ないはず。
ある夜、あの大人気漫画の最新刊の限定版を買うことが出来ず、呻いていたのを僕は知っている。
そこらは話してくれるまで待つことに。
気を取り直していこう。
そこそこ開けた草原地帯、草は腰あたり、ちょっと視界は良くない。
まぁ僕が小さいのもあるんだけど。
草を手で払いながら進んでいく。
剣を使え?
いや、僕って攻撃力皆無って言うか零だから。
攻撃してもどうせ力が反転しマイナスになるみたいだからね。
はい、どうせ意味ないからって置いてきました。
よく考えれば攻撃に使えなくても、枝を落としたり獲物を裁いたり色々できたのに。
馬鹿だよねぇ~~、って自分のことでしたね。
ミコトちゃんの冷たい視線が。
いや、僕にそんな嗜好はないよ御褒美ではありません。
「ーーッ!!」
ミコトちゃんの叫びが聞こえた瞬間。
彼女からもらった剣で掻き分けた草むらから何かが。
僕の腹めがけ飛び込んできた。
「はぁ、可愛い熊さんだね」
「そうじゃの、そやつは魔物じゃが無害な生き物じゃからの」
確かにとても無害そうだった。
外見は色といい、あの赤いアレ装備の熊にそっくりだけど。
サイズがとても小さい。
どれくらいかと言うと、手のひらサイズ十センチくらいだった。
手触りもふわふわもふもふしており、まさにぬいぐるみそっくり。
これは日本に持ち込めば大人気間違いない。
いや、そんなこと出来ても絶対しませんよ。
もふもふは正義、優しく扱うように。
そのようにミコトちゃんに教えられた。
あっ、ちなみにこの熊はスライムに追われ逃げて回っていたところ、僕の腹にぶつかってきただけ。
無防備状態だったのでちょっとだけ痛かったけど問題なし。
むしろ、もふもふさせてくれるので大歓迎。
スライムは簡単に引き剥がし、ミコトちゃんが踏み潰した。
僕はというと、伸びて薄く大きくなったスライムに纏わりつかれ捕食されそうになっていた。
スライムって最弱の魔物だよね、そんなのに追われていたもふもふ熊。
捕食されそうになった僕っていったいどんだけ。
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