第26話 記者会見質疑応答
「そのアートラス王国からの団体はどのように日本へ来たのでしょうか?日本政府とアートラス王国とはどのような外交関係にありますか?」
週刊新風の記者は市ノ瀬に尋ねる。
その口調はまず丁寧だった。
「お答えします。アートラス王国からの団体は船で来ました。この船を海上自衛隊の哨戒機が発見し、護衛艦「あまぎり」が出迎えました。政府はこの世界の情勢を知る手がかりを得る為に、救難飛行艇で東京へ運びました」
最初の質問に答える。
記者の顔は何か試しているような顔である。
「政府とアートラス王国については、接触は出来ておりません。団体との会談とアートラス王国との交渉はこれからです」
市ノ瀬が答え終わると他の記者が「じゃあ今度はこっちの番だ」と手を上げようとする。
「続けてお尋ねします」
新風の記者がこう言うと記者たちは驚き、新風の記者を睨む。
「アートラス王国からの団体への取材は可能でしょうか?」
この質問に他の記者たちは「良い事を訊くじゃないか」と感心する。
市ノ瀬はやはり聞かれたかと少し悩む。
「アートラス王国の団体側は日本に来たばかりであり、お疲れのご様子です。現在は取材を受けられる状態ではないと考えております」
船旅と初めて見る世界である令和の日本
アリア達の心身の疲れに、文化の違いが大き過ぎてマスコミの追及に耐えられないだろう。
それを考えると取材を許可はできない。
「では、いつから取材は出来ますか?」
新風の記者は食い下がる。
「現在は未定です」
市ノ瀬は簡潔に答え、この質問を終える。
新風の記者が口を出さないように素早く「では、次の方」と言い、進行させる。
他の記者からの顰蹙を半ば買っていたので、新風の記者は大人しく席に座り下がった。
「毎朝新聞です。アートラス王国の団体が日本政府へモンスター退治を依頼された件についてです。このモンスター退治を行うのは自衛隊でしょうか?自衛隊で行う場合は武力行使を前提とした海外派遣になるのでしょうか?」
やはりすぐに自衛隊問題に気が付いた。
「アートラス王国の依頼について、政府内で検討が始まったばかりです。自衛隊の投入について何も決定しておりません」
市ノ瀬は先の説明と同じように答えた。
自衛隊によって行うべきではないかと半ば決まっていたが、正式ではない。
何より、異なる世界に日本列島が来てしまった異常事態に加えて、自衛隊が他国で武力行使をする可能性
一度に解決するにしては重過ぎる。
野党もマスコミも激しい追及をするだろう。まだ断定的に言える時期では無い。
「ですが九州に出没した大型の鳥に自衛隊が出動して駆除しました。自衛隊派遣の可能性は大きいと思われますが」
毎朝新聞の記者は食い下がる。
「自衛隊派遣の可能性を含めて政府内で検討中です」
市ノ瀬はあっさりした答えをする。
毎朝新聞の記者はまだ何かを言いたい様子だったが、席に座り質問を終える。
「東京新報です。仮にアートラス王国へ自衛隊が派遣された場合、日本とアートラス王国の間で安保条約のような条約が結ばれるのでしょうか?」
次の質問も自衛隊派遣問題だ。
まだ何も決めていないと言っているじゃないか、と市ノ瀬は心で毒づく。
それでも怒らず答えるのが今の仕事だと、自分に言い聞かせた。
アリア達はホテルで会見の生中継を見ていた。
一時はアリア達の部屋でテレビを見れないようにするべきではないかと意見があったが、辻川が「下手に隠すより、日本はこうだと見せるにはテレビが一番だ」と言い、今も自由に見させている。
政府の記者会見は全ての全国ネットのテレビ局で生中継されていたので、地上波ではどのチャンネルでも放送されていた。
衛星放送はこの異世界に来てから放送の手段を無くし、故にアリア達はこの中継を見るのは必然な環境になっていた。
この会見を見てアリアは決意する。
「私、この記者会見とやらをしたい」
セザールは「なりません」と反対する。
「何故?」
「あのマスコミと言う者達を御覧になって分かったでしょう。何も決まっておらぬと言う市ノ瀬殿へ色んな意見をぶつけています。姫様へもこのような無礼をするのは目に見えております」
セザールは市ノ瀬の苦難ぶりを見て、アリアが同じ目に遭うのを危ぶむ。
「それでも、私の伝えたい事を広めるにはこれが一番良いのではないか?マスコミの一人は私達に会いたいと言っている」
アリアが自分の思いに火が付くと頑なになる。
それでもセザールは「どうかお考え直しを」と求める。
「賢者殿、姫様に言って下さい」
困ったセザールはエーギルに助けを求めた。
「いや、姫様の考えは良いかもしれぬぞ」
エーギルの返事にセザールは呆然とした。
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