第24話 報道規制破られる

 自衛隊中央病院での検査が終わったアリア達は都内にあるホテル「ニュータカヤマ」に宿泊した。

 アリア達を泊めるにあたり、外国の要人にも対応できるこのホテルが選ばれた。

 厳しい目で見るセザールはニュータカヤマのホテルマン達の対応には感心していた。

 誰もがようやく一息をついた。

 アーガス号で出港してようやくたどり着いた日本

 緊張の糸が少し緩む。

 「皆、ご苦労であった。今は休んでくれ」

 アリアは皆へそう労う。

 自分が始めたこの旅路、いや我が儘につき合ってくれた。

 今は少しでも休んで欲しいと正直に思った。

 これから日本の王や宰相と会う正念場が控えているのだから。

 一方で休むどころではなく、部屋で日本の物品を探索して楽しんでいるのがエーギルであり、イルマだった。


 エーギルは目に付いたモノを、坂下の部下である早川へ尋ねていた。

 「ほお、まるで投影魔法じゃの」

 早川がつけたテレビの映像をエーギルは楽しんでいた。

 「このテレビで、映画やドラマ・・・観劇のようなもの、スポーツ・・・競技や試合をご覧になれます。お休みの時は自由にご覧になってください」

 早川は努めてエーギルやイルマへ伝わりやすいように説明する。

 対してセザールやマガリーはテレビに関心がなく、マガリーはセザールの指示で先に休み、セザールはドアの方を睨み警戒している。

 マガリーはアリアの髪を解くと、アリアに言われて寝入っていた。

 当のアリアも自分の部屋で休んでいる。

 アリア達が泊まっている部屋は、外国の政府要人や王室関係者の宿泊を意識した作りになっている。

 ラウンジとしての部屋を中心に、寝室が複数あり、浴室とトイレが付いている。だから一同に同じ場所にアリア達は居る事となった。

 ラウンジの部屋には出入り口を警戒するセザールにテレビを楽しむエーギルとイルマ、説明と世話役の早川が居る。

 エーギルはリモコンで次々にチャンネルを変えて何が映っているか探索中だ。

 「この番組は何じゃ?」

 スーツ姿の女性アナウンサーが出ている番組を指してエーギルが尋ねる。

 「ニュース番組です。世の中で何が起きているか報せる番組です」

 早川の説明に「それは便利だな」とエーギルは感心する。

 ニュースは最初に物価が上がる事を報じる。

 日本列島がこの世界に来た事で、食料やエネルギーの輸入ができなくなった。

 日本がどんな状況に置かれているか、政府は調査中であるとして公表していない。

 政府は報道機関へ「前代未聞の異常事態に国民や経済の大混乱が生じる危機は避けたい」と報道規制を求めていた。

 とはいえ、隠せない物価上昇は報道せざる得ない。


 「物の値段が上がる。ニホンの国内では食料とセキユがあまり穫れないと言う事か」

 エーギルはニュースを読み取り、日本語のまま呟く。

 早川はそれを傍目で見て、国内事情が漏れているように思えて不安になった。

 「つまり、日本は食料を他国に依存している?」

 イルマは日本の食料に関する物価上昇を分析する。

 「そうじゃろう。国内で賄えるなら、交易が途絶えても食べるに困るようにはなるまい」

 エーギルとイルマの会話を聞く早川は二人の知性の高さを知る。

 それは危ういとも感じた。

 日本の内情をすぐに理解できる事は、外交にとっての利点にもなるが弱さを知られる事と同じでもある。

 エーギルとイルマが自国へ戻ったらどんな報告をするのか、早川はそれが危ういと感じた。

 だからと言って早川はエーギルとイルマに口を閉ざすように言える訳ではないが。 

 テレビは物価から政権与党の議員による不正疑惑を経て、「一部週刊誌の報道によりますと」にはじまるアリア達についてのニュースが報じられる。

 「こっ・・・これはワシらじゃ・・・」

 「アリア様も・・・」

 さすがのエーギルとイルマは自分達がテレビに映って驚き絶句する。

 それは一緒に見た早川も同じだ。

 「なんだこれは・・・アリア様の姿が何故に」

 セザールはテレビの仕組みから分からないので、怒りより困惑している。

 早川は三人から離れて携帯電話で坂下へエーギル達に自分達が報道されている事を知ったと伝える。


 「報道規制はどうした?テレビが姫様達をバラし始めたぞ」

 総理官邸では横川が笠原総務大臣へ電話して問い詰めていた。

 笠原は大臣官房の官房長へ怒鳴り、官房長はテレビ放送を所管する情報流通政策局の局長へ怒鳴る事はしなかったが、苛立ちを見せる言い方で何がどうなっているのか調べるように言った。

 そうして調べた結果

 報道規制がありながら、週刊誌が抜け駆けした事で他の報道各社は報道規制の意味が無くなったと判断したと言うのだ。

 「抜け駆けか、マスコミの貪欲さはたまらんな」

 横川は抑えの効かないマスコミに呆れる。

 そんな時に市ノ瀬からの電話が来たのであった。

 「情報公開だと?全てを?」

 市ノ瀬は辻川の提案した姫様についての情報公開に賛同し、現在の日本が置かれた情報も公開するように求めた。

 「姫様の国への自衛隊派遣も、全面的な情報公開で可能にできます。官房長官、お願いします」

 市ノ瀬は頼み込むが、横川は「総理へ伝える」とだけ答えた。

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