第23話 自衛隊派遣議論
この日の夜、「特殊事態対策本部」で会議が開かれた。
議題はアリアからの援軍要請についてだ。
「つまり、害獣駆除を目的とした自衛隊の海外派遣ですか」
生田が事の要約をする。
「そうだ。まず現行で可能かどうか」
市ノ瀬が言うと法務省から出向している永常が「前例が無いですね」とまず言う。
「自衛隊の海外派遣はPKOなどの平和維持活動、災害が起きた他国を救援する国際緊急援助の二種類、武器の使用については部隊の防護の為です。任務が武器使用前提となると前例がないのです」
永常は自衛隊の海外派遣について簡潔に言う。
湾岸戦争後のペルシャ湾掃海派遣を最初に、自衛隊は海外での任務が始まった。
国連による平和維持活動のPKOでの任務
自衛隊は道路や水道のインフラ整備や学校建設をしている。
国際緊急援助による派遣は被災地なった国へ行き、医療や輸送支援を行っている。
どれもが戦闘を任務としていない。
だから小銃などの武器もあくまで隊員と部隊を守る為として装備する。
あくまで人道支援やPKO活動の支援が目的で、他国の部隊が行う治安維持任務にも参加した事はない。
「まずはアートラス王国と我が国の国交や安全保障協力の協定を結ぶ段階が必要ですが・・・」
自衛隊中央病院から戻った坂下が外務省としての基礎的な意見を言う。
「おそらく、そうした手続きをのんびりする時間は無いだろう」
市ノ瀬がそう言うと坂下は「ですよね」と苦笑いをする。
これに永常は「それでも手続きがなければ」と独り言のように言う。
「つまり、現行では無理という事かな?」
ここで辻川が問いかける。
「新たな法案を作るのが一番良いかと。武力行使の憲法解釈をどうするかもありますが」
永常が答える。
「う~ん、どうだろう。災害派遣、海外だと国際緊急援助隊だったな。それでやれないか?害獣駆除なのだから災害扱いでいけるだろう?」
辻川が提案した。
「国際緊急援助隊の自衛隊参加は武力行使を前提とせずになっています。いくら害獣駆除でも国会で追求されたら苦しいですよ」
永常の返答に辻川は「そうなのか」と引き下がる。
「こうなると、アートラス王国を日本の領土にしてだな。国内法の災害派遣を適用するしかねえか」
辻川は突飛な事を言い、永常は冷めた目になる。
ここで清水が「少し遠回りな方法だが」と切り出す。
「国際緊急援助を護衛する名目で、武装した自衛隊を派遣は出来ないか?」
「護衛ですか・・・法改正が必要ですが、法解釈で乗り切れそうではあります」
少し苦しいと永常
「良い案だと思います。後はどのぐらい害獣駆除の武力行使をしやすいようにするかですが・・・」
市ノ瀬は清水の案に賛同する。しかしモンスターと戦うには正当防衛しか手段が無い。
「国際緊急援助隊による人道支援の名目が立ちます。それを大きく打ち出せば、護衛に武装した自衛隊を出すのも支持されるのでは?」
坂下は清水案に賛同する。
「防衛省として、その案に賛同しかねる」
生田が賛同の流れを止める。
「理由を聞かせてください」と市ノ瀬
「本来の目的は害獣駆除です。それをしながら国際緊急援助隊の護衛もする。名目の為に任務を実行する部隊への負担が大きくなりかねない」
生田の反対に清水は「それもそうだな」と認める。
名目の為に自衛隊部隊の負担が大きくなり、任務に支障が出ては元も子もない。
「では、新たな案を検討しよう」と市ノ瀬は仕切り直す。
そこへ森田が「会議中失礼します」と入室する。
市ノ瀬は森田の声がやや焦りが混ざっているのを感じた。嫌な予感がする。
森田は市ノ瀬の傍に寄ると、スマホの画面を見せた。
そこには週刊誌の電子版で「政府が隠す団体が来日」と言うタイトルの記事、そこにはアリア達が撮影されている。
自衛隊中央病院で厚木から乗ったマイクロバスから降りる所を撮影されていた。
「やられたか・・・こんなに早く」
市ノ瀬は苦虫を噛む。
マスコミにはいつかばれるとは分かっていた。
しかし、アリア達が来日して一週間も経たずとは早い。
「あ~バレちまったか」
辻川が森田のスマホを覗き込む。
「マズイですね」と坂下も嘆く。
ところが辻川は「いや、好機だ」と言い出した。
「好機?これがですか?」
市ノ瀬は理解できない。
「そうだ。政府はあのお姫様達を公開しなければならなくなる。そうすれば、姫様の目的も公の場で言える。堂々と議論ができる」
辻川は明るい表情で言う。
「そんな事をしたら世論も国会も紛糾、大混乱になる。収拾できませんよ」
尾倉は辻川を諭すように言う。
「隠れてする方がマズイだろ。やるなら堂々と、自衛隊を姫様の国へ派遣する時は何千人単位になるだろうからな」
アリアやエーギル・セザールがアートラス王国の状況を坂下へ話していた。
多くのモンスターが現れた事を坂下からの報告で知っていた。
「まとまりますか?モンスター相手の害獣駆除とはいえ、武力行使を目的とした海外派遣なんて・・・」
尾倉はそれでも後ろ向きだ。
「それを考えるのが我々の仕事ですよ」
市ノ瀬は消沈しそうな空気を抑えようとする。
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