第22話 アリア、藤原総理へメッセージを送る
「何故そのように時間がかかるのです?」
アリアは市ノ瀬へ尋ねる。
「はい。我が国では内閣や議会で政策が決まります」
市ノ瀬の答えにセザールはため息をし、エーギルとイルマは「それか」と納得する。
「イチノセ殿、この国は共和制ですかな?」
エーギルが言う。
政治の決定を国王ではなく、議会や集団で話し合い決定する。それが共和制である。
「いいえ、民主制です」
現代の日本の政治形態は議会での話し合いによって決まるところは共和制と同じだが、国民が政治に参加する民主制であるところが違う。
「ともかく、王によって物事が決まる訳ではない。老人どもか何人かが時間をかけて話し合うのだろう?」
乱暴なセザールの答えが当たっていた。
「その通りです。閣議・議会に法制度が物事を決めます」
市ノ瀬の返答にセザールは大きくため息をつく。
「時間がかかっては困るのだ・・・」
アリアが詰まらせたような声で言う。
独り言のつもりだったのかもしれない。
誰もが聞いた。
市ノ瀬も同じだった。
「アリア様、貴国が危機的状況にあるのは分かります。しかし我が国は武力を使うには時間がかかるのです」
市ノ瀬はアリアへ言うものの顔は曇るばかりだ。
「どうにかならんかの?」
エーギルが柔らかく、物腰低く尋ねる。
「こればかりはどうにも・・・」
市ノ瀬は窮する。
「宰相殿に会わせてくれまいか?直に要望を伝えたい」
アリアは求める。
日本の国政を差配すると聞いている宰相、もとい総理大臣の藤原に会いたいと言う。
藤原へ直へ訴えれば道を開けないかと。
「藤原総理との面会は今後の予定にあります」
「それはいつ?」
「二日後です。まず、我が国の王であります天皇陛下と皇后陛下とご挨拶されてから藤原総理との面会になります」
「明日に出来ないか?一刻も早く申し上げたいのだ」
アリアは焦れったいという思いを少し見せる。
「予定を変える事はできません。しかし、伝言はできます」
市ノ瀬は森田に用意をするように言った。
「これが姫さんか」
夕方、総理官邸で藤原はモニターに映るアリアを見た。
市ノ瀬はアリアのメッセージを伝える為に、デジカメで動画を撮影した。
撮影する森田へエーギルがしつこくデジカメについて質問をして、森田が困ってしまう一幕もあった。
「いやー美人だなこりゃ」
藤原はアリアの外見を楽しむ。
「総理、そのような事は口にせぬように頼みますよ」
横川が釘を刺し藤原は「分かってる。口を滑らせんよ」と官房長官の区苦言を聞き入れる。
このアリアの動画を見ているのは動画を持ち込んだ市ノ瀬と藤原に横川だけである。
「私はアートラス王国の国王デュランデル・バルジーニの娘、アリア・バルジーニです。ニホン国宰相の藤原閣下へこのように申し上げる機会を頂き感謝します」
アリアはカメラをまっすぐに見つめながら、日本語で挨拶をする。
「日本語が出来るのか?」
藤原は市ノ瀬へ尋ねる。
「他国の言語を話せるようになる魔法で話せます」
「魔法か。魔法があるのかこの世界は」
藤原はやれやれという態度を見せた。
横川は何も感想も態度を見せない。
「我が祖国アートラス王国は存亡の危機にあります。モンスターにより蹂躙されています。王国は国王も出陣しモンスターに戦いを挑みました。しかし、モンスターに勝てませんでした。今や王都もいつ落ちてしまうか分かりません。このままでは王国は滅亡し、民が流民にさせてしまいます」
藤原も横川も黙ってアリアのメッセージを聞いている。
「藤原閣下、アートラス王国を助けてください。ニホン国からの援軍をどうかアートラスへ送って下さい!お願いします!」
アリアは頭を下げながら言った。
その頭を下げたままで動画は終わった。
藤原は「ふー」と息を吐く。
横川は「これは明白な派兵要請だ。厄介だな」と言った。
太平洋戦争敗戦後、専守防衛の安全保障戦略で日本列島を守るだけにしていた戦後日本
国連での活動であるPKOでの海外派遣も、はじめの頃は国会で大いに揉めた。
モンスター退治とはいえ、海外での武力行使を伴う自衛隊の海外派遣
政治も世論も荒れると藤原も横川も予感していた。
その予感がアリアの要望ではっきりとしたのだ。
「市ノ瀬、そちらで何か案を考えてくれ」
横川は市ノ瀬の特殊事態対策本部へと投げた。
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