第21話 市ノ瀬はアリアと面会する

 一方、「アーガス号」は

 アリア達がUSー2で飛び去ると「あまぎり」に先導されながら東京へ向かっていた。

 「あまぎり」と戦い倒れていたクラーケンは海面に浮かび続けていた。 イルマから死亡が告げられていたが、自衛隊側は確証がなかった。

 海自は厚木から対潜爆弾を積んだP-1対潜哨戒機を差し向け、クラーケンを爆撃して沈めた。

 クラーケンの沈没を見届けてから「あまぎり」は「アーガス号」と共に東京へ出発する。

 「俺達、どうなるんスかね?」

 「姫様が居ないんだ。ニホンの連中が何をするか分からんぞ」

 「アーガス号」では水夫達が不安そうであった。

 雇い主であり客であるアリア達が船を去った。そこへ「あまぎり」から手旗信号で「付いてこられたし」と連絡があった。

 「アーガス号」に残っていた木下は船長へ、アリアの一行が先に向かった東京へ「あまぎり」と共に行きましょうと伝えた。

 船長はUS-2に乗る前のイルマから翻訳魔法をかけられ、木下が話す言葉が分かった。


 船長はアリアから(正確にはセザール)から料金の支払いを受け取るために東京へ行く必要があった。

 しかし、まだ出会って半日ぐらいの日本人を信用していない。

 対する「あまぎり」では「アーガス号」が自分達へ反発して、離れないか心配であった。

 アリア達を母国であるアートラスへ帰る時には「アーガス号」で帰って

貰おうと考えていた。

 日本はまだこの世界の地理をよく知らない、一国の姫を送り届けるには安全性という懸念もある。

 だからこの世界の「アーガス号」にまた頼みたいのだ。

 こうして「あまぎり」と「アーガス号」は東京への航海を続けていた。



 市ノ瀬はアリア達が厚木に来た三日後に自衛隊中央病院に向かった。

 陰性報告が出るやすぐの面会だった。

 「姫様はどんな様子だ?」

 総理官邸から移動する車中で市ノ瀬は坂下へ電話する。

 坂下も同じように病院で検診を受け、アリア達と共に病院で過ごしていた。

 検診と共に、アリア達への説明役にもなっていた。

 「だいぶ慣れて、落ち着いた様子です。しかし、護衛のセザールは<姫様に相応しい場所へ移せ>と強く要望されています」

 坂下は自衛隊中央病院からウエブ会議システムで市ノ瀬や外務省へ報告していた。

 血液や検尿の採取をしようとしたらセザールが「姫様に針を刺すだと!?」「小便を取る?姫様にそのような事を?」と度々騒いだ。

 その旅にアリアが「構わない、私はやります」と言ってセザールを大人しくさせた。

 エーギルとイルマは病院に興味津々で、検診を進んで受けた。

 マガリーとエルマは戸惑いながらもアリアが進んで採血を受けるのを見たり、エーギルが「大丈夫じゃよ大丈夫」と言うのを聞くにおそるおそる検診を受けていた。

 食事は帝国ホテルで作られたのを用意した。

 これにはアリア達は誰もが満足している様子だった。


 「退院後の宿泊は準備させている。これから姫様に会いに行くから、伝えて貰いたい」

 電話から20分後に市ノ瀬は自衛隊中央病院に到着した。

 同行者は公設秘書の森田だけだ。

 「局長、姫様や皆さんがお待ちです」

 坂下が市ノ瀬を廊下で出迎えた。

 アリア達はアリアが個室、三人部屋をマガリーとエルマ・イルマ、エーギルとセザールそれぞれで分かれていた。

 市ノ瀬の訪問を坂下は「日本の宰相の部下が面会に来ます」とアリア達に伝えた。

 面会はエーギルとセザールの部屋に椅子を運び込んで行われた。

 病室にアリアを中心にコの字型でエーギル達が並ぶ。

 「日本政府からの面会希望者が来られました」

 坂下がアリア達に告げてから市ノ瀬は入る。

 セザールとマガリーは市ノ瀬を怪しむように見て、エーギルとイルマは市ノ瀬が何を言うのか待ち望み、エルマは市ノ瀬がどんな身分の人であろうかと眺めていた。

 そしてアリアはただ市ノ瀬をまっすぐ見ていた。

 集まる様々な視線を受けながら市ノ瀬は前へ進む。

 病室がどこかの城や宮殿みたいだ。


 アリア達の座る列の手前で市ノ瀬は止まり、頭を下げる。

 「日本政府、藤原総理の代理として来ました市ノ瀬尚吾です。面会の機会を頂き感謝します」

 頭を下げながら市ノ瀬は名乗りと感謝を述べる。

 「私はアートラス王国の国王デュランデル・バルジーニの娘アリア・ベルジーニです。イチノセ殿よく来られた」

 王族であるアリアは威厳ある挨拶をした。

 「今日はアリア様の要望をより詳しく聞こうと思い参上しました。坂下からも伺っておりますが、直に聞いてお話をさせて頂きたいのです」

 市ノ瀬の求めにアリアは表情を変えず「承知した」と返した。

 内心では政務を担う宰相の部下と話す事で、より前進出来ている事に心が浮き気味であった。

 「私の望みは我が祖国、アートラス王国を助けて欲しい。アートラスはモンスターに襲われ窮地にあります」

 感情を入れず王族として淡々と市ノ瀬へ言う。

 「つまり、モンスターを我が国で倒して欲しいのですね?」

 市ノ瀬もアリアの様子に合わせ落ち着いた声で答える。

 「アートラスも残る兵で共に戦います。どうかアートラスを助けて貰いたい」

 アリアの声量と抑揚が上がる。

 「アリア様、我が国がモンスター退治に兵を送るのを国王様は認めていますか?」

 市ノ瀬はアートラスの国王であるデュランデルがモンスター退治が目的とはいえ外国軍の入国を認めるのか知りたかった。

 坂下からアリアの日本行きは独断と知っていたが、デュランデルの考えを市ノ瀬は知りたかった。

 「ニホンから援軍の入国については、まだ話しておらぬ」

 アリアは少し困った顔になった。

 「イチノセ殿、それについては心配は無用だ」

 エーギルが話しかける。

 「モンスターとの戦で国王様は諸国に援軍を求め、実際に諸国連合軍がアートラスで戦ったのじゃ。国王様は認めてくださる筈」

 市ノ瀬はエーギルの言葉からデュランデルは外国からの援助を受け入れられる人物であるようだと分かった。

 「イチノセ殿、ニホンは助けてくだされるか?」

 アリアは座りながらも市ノ瀬へ前のめりになるように迫る。

 「アリア様、それをこれから日本政府で決めます。しばしお時間をください」

 市ノ瀬の答えにアリアは静かに脱力する。

 「どのぐらい待てばよいのだ?」

 セザールが苛立つように言う。

 「しばし、7日間ほど」

 今度は市ノ瀬が困った顔になった。

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