第20話 アリア日本到着
東京湾上空を飛行するUSー2からは、広がる横浜市や川崎市の街並みが一望に広がる。
「あの高い塔は城ですか?」
アリアは横浜ランドマークタワーを指して言う。
地上70階のタワービルはアリア達の世界には無い大建築だ。
アリアが王の住む城だと思うのは無理はない。
「あれは城ではありません。宿屋と商店が入っている建物です」
坂下が答える。
「つまり、商人の館なのか?」
「そうです」
「ニホンの商人はこんなに大きな館に住んでいるのか」
「いや商人は別に自宅がありまして、この商館はあくまで仕事をする所です」
「別に屋敷も構える商人、相当な豪商なのだな」
アリアはより感心する。
横浜ランドマークタワーは日本で上位の企業が所有している。
アリアの見当は間違いではない。
「それにしても大きな街じゃ、住民は100万ぐらいはおるだろうな」
エーギルも横浜市の街を眺めていた。
目の前から奥まで続く市街地に驚嘆する。
諸国への旅で最も大きな都に行った事はあるが、果てが見えないほどに市街が広がっているのを見た事はない。
「100万の都市?そんなものが?」
マガリーは信じられないと言う。
自分達の世界では人口10万が住む都市が一番大きい。その10倍も住む都市があるとはマガリーの常識では信じられない。
「100万人が住む街、皆が食べられるのかな?」
イルマは疑問を言う。
多くの住民が生活するにはまず食料だ。
誰もが食料を得られるのか?住民に階層があって食料の配分に差があるのではないかとイルマは思えた。
「医者にどれだけ診て貰えるか、水は都市の全域で使えるのか?疑問は尽きぬな」
エーギルもイルマの思考に加わる。
知の人間であるエーギルとイルマは横浜市を見ながらその都市の中身を考える。
USー2は横浜市の上空を横断して、海自の厚木基地へ着陸する。
駐機場で止まった2機のUS-2はすぐに厚木基地の海自隊員によって青いビニールシートで囲う。
「青い幕を広げるのはニホンの習慣か?」
アリアは様子が変だと感じた。
「あれは皆様を隠す為です」
坂下は少し冷めた態度で言う。
「隠す?どういう事だ?」
セザールが怪訝に尋ねる。
「我が国には世の出来事を報せる職業があります。我々は報道やマスコミと呼びます。そのマスコミは何処にでも居るのです」
「それは間諜(スパイ)のようなものか?」
セザールが言うと坂下は「違います」と答えた。
「マスコミは庶民に世の出来事を報せるのが仕事です。間諜とは違います」
坂下はそうマスコミの解説を付け加えた。
「マスコミから我らを隠すのは何故だ?」
アリアは坂下へ尋ねる。
「皆様は違う世界から日本へ来た最初の人間です。マスコミからより注目されます」
「注目されると何が不都合なのだ?」
「追いかけて来ます。追いつかれると質問責め、私事でも遠慮なく質問し、場合によっては悪い印象を広めます」
「そんな無礼が許されるのか?」
アリアはそんな生業がある事に驚いた。
「我が国には報道の自由、言論の自由があります。どんなに上位の者に対して批判ができます。また個人の考えも世に出す事ができます」
坂下の説明に「なんと恐ろしいものだ」とセザールは言葉に出した。
アートラスに当てはめると、王族への批判を庶民がしても許される。そんな事は聞いた事が無い。
日本ではそんな事が許される。価値観が違うと感じた。
「マスコミが厄介なのは承知した。ニホンの王とはすぐ会えるのか?」
アリアは坂下へ求める。
「いえ、まずは検疫をして貰います」
坂下はすまなそうに言う。
アリアの熱意は理解していた。
だが、政府からは「検疫をまず受けよ。面会は検疫で陰性を確認してから」と指示があった。
アートラスをはじめ、この世界にどんな病原菌があるか分からない。
だから検疫でアリア達の安全を確認してから政府要人との面会をすべしと市ノ瀬の「特殊事態対策本部」からの提言で決まった。
「アリア様が病気を持っておられると言うのか?無礼者め!」
セザールはいきり立つ。
「セザールよせ、我らのせいで病が広まっては申し訳ないではないか。言う事に従おう」
「分かりました」
アリアが止めてセザールは怒気を引っ込めた。
こうして坂下とアリア達一行は厚木基地に降り立った。
すぐにマイクロバスの乗せられ、検疫を受ける東京都内の自衛隊中央病院へ送られた。
「現地人の姫さんが来たか」
アリア達の到着はすぐに政府や総理である藤原にも届いた。
「現在、自衛隊中央病院で検疫を受けています」
市ノ瀬は総理官邸の執務室で藤原へアリア達の到着を報告していた。
「まだ会えないか」
「はい。そこで私が先に面会しまして要望を改めて聞きます」
市ノ瀬や藤原には坂下からアリアからモンスターから自国を救って欲しいと要望されている事は伝わっていた。
市ノ瀬は藤原と会う前にアリアから詳しく事情を聞こうとしていた。
「その要望、どうしますか総理?」
官房長官の横川が藤原へ尋ねる。
「姫さんの要望はモンスター退治だったな。自衛隊の出番になる訳だろ?」
藤原がそう言うと市ノ瀬は「そうなります」と答えた。
「しかも姫さんの国でだ。海外派遣やら武器使用やらで国会が揉めそうだな」
藤原は是非を決める前に問題を挙げて韜晦する。
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