第19話 アリア初めての飛行機

 イルマがクラーケンの死亡を確認したものの、「あまぎり」はクラーケンの死亡を確認する為に周囲を回る。

 (イルマは「私が確認しているのに」と不機嫌になった)

 主砲と重機関銃はクラーケンに向けている。

 あれからクラーケンは海面で仰向けに倒れたままだ。

 「使者殿、いつまでこうしておるのだ?」

 アリアは苛立つように言った。

 もう一時間ほど「あまぎり」はクラーケンの周りを回っている。

 坂下はクラーケンが倒された後で「では、皆さまを日本へ案内します。しばしお待ちを」とアリアやエーギルらへ言った。

 しかし、日本へ向かう様子が無い。

 「あまぎり」から「アーガス号」へ「モンスターの死亡確認を行う為、当艦から離れないように」とも手旗信号で伝えられていた。

 「アーガス号」に乗るアリア達一行は動けずにいた。

 「お迎えが来ますので、しばしお待ちを」

 坂下は不機嫌なアリアの様子にを見て、思わず頭を下げて言ってしまう。

 「迎え?別の船が来るのですか?」

 アリアが問う。

 「それは・・・あ、そろそろですね」

 坂下は腕時計を見ながら言った。

 「坂下さん、迎えが近くにまで来ているそうです」

 木下が無線での報せを伝える。

 「あ~見えて来ましたよ。アレです」


 坂下は西の空を指さした。飛行機の機影が二つ見える。

 「あれは空を飛ぶ物じゃ、二つも来たのか!」

 エーギルは近づく飛行機に笑みを見せる。

 その飛行機は「あまぎり」と「アーガス号」を見つけると高度を落とし始めた。

 「おお~大きいな」

 低高度にまで降りたその飛行機は「アーガス号」の上空を旋回する。

 四発エンジンの大型機にエーギルは飛行機好きの子供のように目を輝かせる。

 「使者殿、まさかアレに乗るのか?」

 対してアリアは不安げだ。

 「はい、あの飛行機へ乗って頂きます」

 坂下はにこやかに言う。ようやく日本へ向かえる足が来たのだから。

 「乗って大丈夫なのか?」

 アリアは尋ねる。

 「はい、あの飛行機を操る者の腕は確かです」

 坂下は胸を張るように答えた。

 「そうであるなら良いが・・・」

 アリアは納得する言葉を言うものの、不安のままだ。

 「姫様、空を飛ぶのは初めてですね?」

 イルマがアリアへ尋ねる。

 「そうよ」

 「鳥獣に乗る時も同じ、相手を信じれば落ちない」

 「そういうモノなの?」

 「そうです」

 イルマと話してアリアは少し不安が和らぐ。

 そうしている間に飛行機は着水に移る。


 着水した飛行機、US-2飛行艇は「アーガス号」と並ぶ位置に停まった。

 「では、行きましょう」

 US-2から来たゴムボートに坂下・アリア・エーギル・イルマ・サゼール・マガリ―・エルマが「アーガス号」から縄梯子で降りて乗り込む。

 US-2の一番機に坂下・アリア・サゼール・エルマ

 二番機にはエーギル・イルマ・マガリ―

 と分かれて乗り込んだ。

 この二機のUS-2は、「アーガス号」発見の後で岩国基地から呼び寄せていた。

 万が一に「アーガス号」が沈没するような事態に備えての用意だった。

 「アーガス号」が沈没する危険性は無いが、今度は東京へ要人を送る為として飛来したのだ。

 「面白い、水上に降りてまた飛び立つ。どんな仕組みか知りたいのう」

 エーギルはUS-2での飛行を楽しんでいた。

 本当は機内のあちこちを回りたいが、座席でベルトを締めて座るように機長から指示があった。

エーギルが「ここは船長の言う通りにしようぞ」とマガリ―へ言った。

イルマはすんなり受け入れたが、騎士であるマガリ―は初めて乗る飛行機に緊張し、見知らぬ自衛官からの指示に戸惑っていたからだ。

だから賢者であるエーギルがマガリ―へ言葉をかけた。

「わっ分かった。今はここの船長に従おう」

 まだ緊張は解けないがマガリ―はエーギルの言う事に従った。

 「姫様は大丈夫かの」

 ふとエーギルはアリアを心配する。

 そういえばUS-2に乗る前はマガリ―やサゼール・エルマと同じく不安そうだった。

 無理もない。空を飛ぶなんて鳥獣を乗りこなす一部の人間だけしかやった事がないのだとエーギルはアリア達の不安を理解していた。


 「おい、本当に大丈夫なのか?揺れたぞ?」

 一方、一番機では気流の揺れにサゼールが思わず声を上げた。

 「大丈夫ですよ。ねえ?」

 坂下は近くに居る機上整備員へ呼びかける。

 「もちろんです!」

 機上整備員は自信満々に答えた。

 「落ち着けサゼール、乗ってしまったからには信じるしかない」

 アリアがサゼールに呼びかける。

 「エルマは大丈夫か?」

 侍女であるエルマをアリアは呼ぶ。

 「いっいえ。今の揺れで気分が・・・」

 エルマは顔が真っ青になっていた。

 「あの人を診てやってくれ」

 坂下は乗っている機上救護員を呼び、エルマを診させた。

 救難機であるUS-2飛行艇には准看護師の資格がある機上救護員が乗っている。

 「姫様は大丈夫ですか?」

 坂下はアリアの様子を見る。

 緊張で固い表情だが、顔色は悪くないようだ。

 「少し落ち着かないだけです」

 アリアはそう答える。

 初めて乗る飛行機で空を飛ぶのだから好事家のエーギル以外は落ち着かないのは当然だと坂下は理解した。


 エルマは機上救護員から貰った酔い止めの薬を飲んで落ち着いた様子だ。

 サゼールはアリアを警護する者として周りを警戒し、気を張り続けている。

 アリアは段々と気分が落ち着いて来ていた。

 US-2は異常なく飛び続けているので、落ちる心配が無いと思えるようになっていた。

 「姫様、窓をご覧ください」

 ぼんやりとしていたアリアへ坂下が言う。

 アリアの横にある窓から陸地が見える。

 見えているのは千葉県の房総半島だ。

 「まさか、ここは」

 アリアの頭はすぐに目覚める。

 「そうです、日本です」

 坂下の答えにアリアは「とうとう来れたのだな」と感じ入る。

 感動しているアリアはすぐに驚きに変わる。

 US-2は千葉県豊津市から東京湾に出た。

 「これは街なのか!?」

 アリアの目に映るのは横浜市や川崎市の市街だ。

 ビルが奥深く林立する大都市にアリアの目は丸くなった。

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