第18話 「あまぎり」クラーケンと決着をつける

 「ほお大砲か」

 「アーガス号」でエーギルは船長の望遠鏡を借りて「あまぎり」とモンスターの戦いを眺めていた。

 「クラーケン相手に大砲1門で勝てるかの」

 エーギルの独り言にイルマは「ダメージはあるけど、まだダメ」と答える。

 「クラーケンは強いのか?」

 アリアはエーギルへこの世界の言葉で尋ねる。

 「クラーケンは身体の弾力性で弾き、何本もの足で攻撃して来る厄介なモンスターじゃ、強いですぞ」

 「それではニホンの船は負けるのでは?」

 アリアは「あまぎり」がクラーケンに負けるのではと不安になる。

 「姫様、それを見極めましょうぞ。ニホンがクラーケンに負けるようではアートラスを助ける事は無理ですぞ」

 エーギルは望遠鏡から顔を外し、アリアへ向き合って言った。

 ようやく出会えた日本であるが、本当に自分たちの祖国を助けられるのか?その実力を見極める必要がある。

 「そうね」

 ようやく見つけた救世主であるが、本当の救世主なのか?

 アートラスを統治する王族として、この戦いをよく見届けなければとより「あまぎ」とクラーケンの戦いをアリアは見つめる。

 そんなエーギルとアリアの会話を見ていた坂下は、二人があえて現地の言葉で固い面持ちでいるのに不安が生じていた。

 エーギルとアリアの言葉は分からないが、「あまぎり」がモンスター(クラーケン)に勝てるかどうかの話をしているのだと察する事ができた。

 (ここで下手に何かを言うべきではないな)

 坂下はエーギルとアリアに安心をさせる為の言葉を話すことをあえてしないと決めた。

 もはや目の前の事実が決める時なのだ。

 だから坂下は「あまぎり」へ祈る。勝ってくれと。


 「目標、出血や傷を確認できるものの依然として健在」

 カーム1も「あまぎり」の見張りも同じ報告をする。

 「あまぎり」は砲撃をクラーケンの胴体に当てた。

 クラーケンは驚いて、後ろへ下がったがまた進み出て「あまぎり」へ挑んで来た。

 クラーケンは何本もある足を「あまぎり」へ伸ばす。その足を重機関銃で撃ち込み追い返す。

 「いかんな、弾切れになってしまう」

 連射による弾幕でクラーケンと互角にやり合えているが、撃ち続ければ弾切れになる。

 弾切れになれば、「あまぎり」クラーケンの足によって海中へ引き込まれるだろう。

 砲雷長は焦りを感じ始めた。

 「砲雷長、艦長からです」

 艦内通話の電話で艦長が呼んでいた。

 「砲雷長、あのイカはしぶといな」

 艦長は気楽な様子で言う。

 「はい、思ったよりもしぶといです。このままでは弾切れになってしまいます」

 対して砲雷長は重く言う。

 「砲雷長はイカの絞め方を知っているかね?」

 艦長は唐突に言う。

 「存じません」

 砲雷長は答えながら艦長の趣味が釣りだと思い出した。

 前に休暇で海釣りをして、釣った魚を捌く事もあると話していたと。

 「イカは目の間を刺すんだ。それで絞める事ができるんだよ」

 あたかも趣味の海釣りについて話す時と同じように言う。

 「艦長ありがとうございます!主砲の残る砲弾で目の間を狙います!」

 砲雷長はヒントを得た。

 「主砲を目標の目と目の間を狙え!そこへ撃ち続けろ!」

 「あまぎり」は主砲の狙いをクラーケンの胴体より下にある、目と目の間に定め、撃つ。

 クラーケンは両目を閉じて痛みに耐えている様子だ。

 「どうもこっちの砲弾は貫通しないな・・・」

 艦橋から直にクラーケンへの砲撃の効果を見つめる艦長

 派手な爆炎に包まれるクラーケンであるが、急所を突いている割には倒せない。

 「徹甲弾のような砲弾が必要なのか・・・」

 砲雷長はこちらの砲弾がクラーケンの表皮で炸裂している事に気がついた。

 もはや軍艦同士の撃ち合いは位置情報の特定とミサイルでを使う戦い方になっている。

 かつての固い装甲の軍艦同士が主砲と魚雷を撃ち合う海戦は起きなくなっている。

 情報収集と探知能力による情報戦の能力やミサイルの誘導の正確さが艦艇の性能で求められ、撃ち合いに耐える厚い装甲は必要とされなくなった。

 だから貫通力の高い徹甲弾は現代では主砲の砲弾から姿を消している。

 現代戦の砲弾は対空戦闘や対地支援で使われているからだ。

 「もしかすると、機関銃の方が良いか?」

 砲雷長はふと思う。

 「あまぎり」が装備している重機関銃はアメリカ製のブローニングM2重機関銃だ。

 この機関銃は戦闘機に装備して敵の飛行機を攻撃する為にも使われた。

 飛行機を壊すほどの威力ならば貫通力があるはずだ。

 「銃座!目標の目と目の間を撃て!」

 それまでクラーケンの足を近づけない射撃をしていた銃座に、クラーケンの急所と思わしき場所を撃たせる。

 50口径の銃弾は刺すようにクラーケンの双眸の間の表皮を貫いた。

 クラーケンは身体を後ろに仰け反り、海面を叩くように倒れた。

 「やったのか・・・」

 艦長は思わず言う。

 「撃ち方待て」

 砲雷長はモニターで海面に倒れるクラーケンを見て主砲と銃座に射撃を止めるように命じた。

 「あまぎり」の誰もが本当に倒せたのかと、黙って結果が分かるのを待つ。

 

 「イルマ、どうだ?」

 「アーガス号」でもクラーケンが倒れたのが見えた。

 「生命力は無い。死んでいるよ」

 イルマは杖でクラーケンの生命力を測った。

 「使者殿、あのモンスターを倒された。さすがですな」

 エーギルは坂下へ日本語でクラーケンを倒した事を祝した。

 坂下は「はい、我が国の船は強いですから」と胸を張る。

 そこへアリアが割って入る。

 「使者殿、日本へ案内してください」

 「あまぎり」がクラーケンを倒したのを見てアリアはやはり日本は頼りに出来ると確信した。

 

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