第17話 モンスター姿を現す

 「砲雷長、木下二尉から目標は生きていると連絡」

 「あまぎり」のCICに無線を介しての木下から伝言が届く。

 「生きている?本当か?」

 砲雷長は信じられないと反応をする。

 一発でも潜水艦やフリゲート艦を撃沈させられる魚雷が当たって生きているのが信じられなかった。

 「SHを目標上空へ行かせろ。見張りは少しでも異変があれば報告」

 砲雷長は確認をさせる。

 まず「あまぎり」の見張りが「目標から尻尾のような物が何本も出ています」と報せた。

 次いでモンスターの上空に到達したSH-60Jのカーム1からも報せがあった。

 「目標より出血らしき液体の流出を確認、目標の形状はイカに似ている」

 カーム1の報告に砲雷長は「イカか」と呆気に取られたが、巨大なモンスターに変わりない。

 「アスロックの次弾はあるか?」

 「ありません」

 砲雷長は「そうか」と静かに返した。

 空から来た鳥対策でシースパローと主砲の砲弾は実弾を新たに積んだが、他の弾薬は積まなかった。

 モンスター相手の水中と海上での戦闘をあまり考慮していなかった。

 「艦長、目標はまだ生きています。しかしアスロック残弾なし、短魚雷もありません」

 砲雷長は艦長へ艦内用の電話で報告する。

 「目標を倒せないのか?」

 「いいえ、主砲があります。目標が海面に出ればですが」

 砲雷長の言わんとするところを艦長は理解した。

 近距離での戦闘となる。

 モンスターが「あまぎり」に手が届く所まで近づく。

 自艦の損傷や隊員の死傷する危険があると砲雷長は言う。

 だからと言って、「あまぎり」はモンスターから逃げる事はできない。「アーガス号」を守らねばならないからだ。

 「艦長了解、砲雷長は現状で戦闘を継続せよ」

 「砲雷長了解しました」

 こうして「あまぎり」は主砲で戦闘を続ける事となった。

 

 「船長、船長はいますか?」

 木下が「あまぎり」と無線で通話し終わると「アーガス号」の船長を呼ぶ。

 船長は木下の近くへ来たが、翻訳魔法はかけられていない。

 エーギルが船長の傍に来て通訳する。

 「我々の船の船長からの伝言です。アーガス号は逃げるようにとの事です」

 木下の伝言をエーギルは船長へ訳して伝える。

 「負けそうなのか?あの船は」

 船長はよく分からない武器で戦う「あまぎり」に任せれば良いと安堵したが雲行きが怪しくなったのだと実感した。

 「モンスターにやられるのはゴメンだ。船を出すぞ!」

 船長は水夫達へ大声で停めていた「アーガス号」を動かすと告げる。

 畳んでいた帆を広げ、錨を上げ「アーガス号」は進み出す。

 「船長、航行しながらで良いからあまり離れないでくれ」

 エーギルが船長へ注文をつける。

 「賢者様、無茶を言わないでくれ。こんな所で海に放り出されるか、モンスターに食われるかなんて勘弁ですぜ」

 船長はエーギルの注文を断る。

 「イルマよ攻撃魔法は出来るな?」

 エーギルはイルマへ尋ねる。

 「少しだけなら」

 イルマはエーギルが何を自分にさせたいか分かった。

 「モンスターを倒せるような力は無いよ」

 イルマはエーギルが何か言う前に釘を指す。

 エーギルは「モンスターを牽制できるなら良い」と納得する。

 

 「砲雷長、<アーガス号>が動き始めました」

 レーダーに映る「アーガス号」の光点が少しづつ動き出した。

 「いいぞ。砲撃の巻き添えにしなくてすむ」

 主砲の砲撃は着弾を誘導できない。

 命中しなかった砲弾が流れ弾となって「アーガス号」に当たる危険があるからだ。

 「こちらカーム1、目標が浮上しつつあり」

 カーム1の無線による報せがCICにスピーカーで届く。

 「砲撃よーい!銃座も射撃準備だ」

 モンスターが海面から出れば、主砲も機関銃も撃てる。

 「出た!」

 「デカイ・・・イカだ!」

 「あまぎり」の目前でモンスターが浮上した。

 見張りの乗員は目の前に現れたモンスターに思わず絶句した。

 まさに巨大なイカだった。

 あたかも海面で立つように、そのモンスターは足以外を「あまぎり」の前に立たせた。

 まるで己の姿を見せて威嚇しているようだ。

 「主砲、銃座!撃て!」

 初めて見る巨大なイカの姿をしたモンスターに思わず呆気に取られる「あまぎり」の乗員へ渇を入れるように砲雷長は射撃を命じる。

 「あまぎり」の主砲である76ミリ速射砲と右舷にある1基の12.7ミリ重機関銃が連射してモンスターへ撃ち込む。


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