第16話 「あまぎり」アスロック発射
「通信、<やまぎり>へ。内容、大型の不明生物が本艦と現地住民船舶に接近中なり、威嚇発砲をするも接近を続ける」
艦長はここで一区切りし、「<あまぎり>はこれより大型不明生物に対し駆除を目的に武器を使用する。以上」
艦長はモンスターに対して危害を加える武力行使の前に、「あまぎり」が所属する第11護衛隊旗艦である「やまぎり」へ状況を伝える。
艦長が通信内容を指示した直後に砲雷長から「主砲とアスロックは準備できています」と報告が入る。
今度は威嚇ではなく、モンスターに当てる。
「了解した。指示あるまで待て」
艦長は主砲の砲撃を待たせた。
「艦長、<やまぎり>より返信です。<隊司令了解、<あまぎり>は現地住民船を守るべく必要な行動をせよ>です」
第11護衛隊の司令が「あまぎり」の行動を認める。
この返事を艦長は待っていた。
「砲雷長、射撃を許可する」
艦長の許可が下り、CIC(戦闘指揮所)に居る砲雷長はやっとだとため息をしながら「主砲・アスロック発射用意」を命じた。
「あまぎり」で実弾のある武装は艦対空ミサイルのシースパロー、主砲とアスロックと呼ばれる対潜水艦ミサイル、対不審船用に装備が広まったM2重機関銃になる。
両舷に発射器がある対潜水艦の装備、短魚雷は訓練用しかない。
今の「あまぎり」で海中の目標に対してはアスロックしか武器が無い。
「目標との距離6000、目標は我が艦を追尾中」
モンスターは「あまぎり」を追いかけるように近づいている。
アーガス号に標的を変えないように、「あまぎり」は速力を18ノットから10ノットに落としている。
「目標の音紋データがありません。魚雷での追尾はできませんよ」
ソナーを担当する水測長がアスロックを使用する際の懸念を砲雷長へ言った。
アスロックは魚雷をロケットブースターで打ち出す兵器だ。弾頭部分となる魚雷に目標の出す音から得られた音紋データが入力されて追尾できる。
しかし、モンスターの出す音のデータを自衛隊は持っていない。
「撃ち放しでやるしかないな」
追尾はせず、ただ魚雷はまっすぐに進ませ当てるしかないと砲雷長は考える。
「目標の後方に着水させ、奴の尻に当てる」
砲雷長の言い方にCICに詰める面々が思わず口を緩める。
こうしてアスロックは「あまぎり」から発射された。
アスロックは8連装の発射装置から撃ち出される。発射をする時はランチャーを目標への方向へ向ける。
「あれは何じゃ!?」
エーギルは「あまぎり」からロケットブースターの白煙を上げて打ち上がるアスロックに驚く。
坂下は外務省の官僚であるから自衛隊の装備に関して知識が無い。
だから坂下は木下へ視線で説明を促す。
「あれはミサイルと言う武器です」
木下がエーギルへ説明を始める。エーギルは木下に背を向けながらアスロックを目で追い続けている。
アリアも木下の近くにより説明を聞こうとしている。
「ミサイルとやらはどうやって海中のモンスターを狙うのだ?」
エーギルは空を飛ぶアスロックを眺めながら尋ねる。
「空を飛ぶのは、当てる位置に早く行く為です」
木下は務めて分かりやすい言葉で説明する。エーギルがどの程度の知能と理解力があるのか分からない事もあるが、難しく込み入った言葉を使って誤解を避ける意味もある。
「それからどう…おー」
エーギルが質問を重ねようとした時に、アスロックは海面へ向かう降下のコースに入り、分離した。そしてパラシュートを開いて魚雷部分を海面に着水させた。
エーギルはそんな過程を眺めて感心している。
「布みたいな物を広げて定めた位置へ降ろすのか。賢い方法じゃ」
パラシュートで降ろされる魚雷を眺めながらエーギルは分析する。
木下はパラシュートで降ろすのはロケットブースターによる高速飛行でのエネルギーを落とし、魚雷を壊さない為であると説明したかった。
けれども、パラシュートの説明からしなければならないなと思った木下は説明をあえてしなかった。
「海に降ろした武器は海の中を進み敵へ当たります」
木下は魚雷についてを端的に説明した。
「海の中を進む武器だと!?どんな仕組みをしておる?」
エーギルは木下へ振り向き、尋ねる。
「中身は機械がありまして、水車を回して進みます」
木下はエーギルに分かりやすいように言葉を選ぶ。
「海の中で水車?・・・水車か。水車であれば推進力があるか」
エーギルは木下の説明を噛み砕く。
そうしている内にアスロックはモンスターへ向かって進み、命中した。
「おお!」
命中した水柱が立つと「アーガス号」の乗員から感嘆の声が上がる。
「命中しました」と木下が言う。
「これで倒したのか?」
アリアはモンスターがどうなったのか見えないだけにそう疑問を持つ。
「命中したのです。倒せたでしょう」
坂下は自信があるように答えた。軍事に疎いとはいえ魚雷が命中して無事な生物はいないだろうと思えたからだ。
「使者殿、倒してない」
イルマが否定する。
坂下と木下は「え?」と声を漏らしてしまう。
「生命力を感じる。まだ生きてる」
イルマは持っている杖を経てモンスターを感じ取っていた。
「使者殿・・・」
アリアが不安そうに坂下へ。
「大丈夫です。まだ戦えますから」
坂下はアリアへそう言いながら木下へ視線で「まだやれるよな?」と問う。
「はい。<あまぎり>は戦闘を続行できます」と木下は坂下へ答える。
「そうであろう。そうであろう」
エーギルは何やら楽しそうだ。次はどんな見た事無い物を出して来るのか楽しみなのだ。
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