第15話 「あまぎり」戦闘開始


 「ソナーで探知出来てるか?」

 「あまぎり」艦長はまず「あまぎり」自体が脅威を探知出来ているか尋ねる。

 ソナーを担当する水測員は「水中を高速で移動する音が微かに聞こえます。生物の音です」と答える。

 「海の怪獣か。SH(哨戒ヘリ)を出して確認させろ」

 「あまぎり」の後部にある格納庫からSH-60J対潜哨戒ヘリコプターがヘリ甲板に引き出され、発艦する。

 「あれは何じゃ?使者殿アレは?」

 エーギルはSH-60Jを見て興奮する。話す言葉がアートラス語と日本語が混じるほどに。

 坂下と木下はエーギルの様子に少し困りながらどうやらSH-60Jについて質問しているのだと分かった。

 「あれは空から敵を見つける乗り物です。ヘリコプターと言います」

 坂下が分かりやすくエーギルへ言う。

 「空を飛ぶ乗り物!?あれに人が乗っているのか!」

 エーギルは衝撃を受ける。

 「そうです」と坂下が答える。

 すると、エーギルは「あの乗り物は誰が作ったのだ?」と続けて問う。

 「我が国の技術者・・・いや職人です」

 エーギルに分かりやすく言い換えながら、坂下はエーギルの日本語が滑らかなものになっている事に気づいた。

 会話を続けた事で翻訳魔法の効果が高まっているのだ。

 「職人!?人間があれを作った・・・なんと・・・」

 人が魔法でも、モンスターを使うなどでは無く、人が作った物で空を飛んでいる。

 賢者であるエーギルはこれまで机上の構想としての空飛ぶ乗り物は聞いた事はあるものの、実際に作った物を見た事が無い。

 それだけにヘリコプターの存在は自分の知識を越える存在だ。

 知の探究者エーギルは未知に気分が高まっていた。

 「もっと教えてくれないか」

 「すみません。私は詳しくないので日本へ来ればよく知る方を紹介しますよ」

 エーギルを宥める坂下、その横でアリアは「あまぎり」とSH-60Jがどう動くのか見守る。


 「こちらカーム1、海中に大型生物らしき影を発見した」

 発艦から三分後にコールサインがカーム1のSH-60Jは自然とは違う波を立たせている海面を見つけた。

 その上空に行くと、何か海面下を進んでいる影が見える。

 「魚雷があればなあ・・・」

 カーム1の機長がぼやく。

 緊急の出港であったので、SH-60Jに装備する実弾の魚雷が「あさぎり」には搭載していなかったのだ。

 もしも魚雷があれば、眼下の不明生物を吹き飛ばせるのにとカーム1の機長は思う。

 武装は何もない。目標を探し出し追尾するしか出来ない。


 「SHが見つけた方向へ向かう」艦長は「あまぎり」をカーム1が旋回する方へ走らせた。

 「使者殿、貴国の船はモンスターが何処に居るのか分かっているのか?」

 アリアは更に遠ざかる「あまぎり」を見て坂下に尋ねる。

 まだ海面下にあるモンスター、アリアやこの世界の住人からすれば当ても無く探し回っているのではと不安にある。

 アリアの問いを聞いた木下が坂下へ耳打ちする。

 「詳しい事は分かりませんが、先ほど飛びましたヘリコプターでモンスターを発見したようです。位置が分かって向かっているのです」

 「それなら良かった」

 アリアは「あまぎり」が坂下と木下を置いて逃げた訳では無いと理解した。

 「では、あの船はこの船を守ってくれるのですね?」

 アリアは再度尋ねる。

 「勿論です」

 坂下は自信満々に答えた。


 「目標の針路変わった。<あまぎり>へ向かっている」

 カーム1が伝える。

 「いいぞ、こっちへ来い」

 艦長はモンスターの標的が「アーガス号」から移り、戦いやすくなったと感じた。

 「探知しました。12時方向、距離8000」

 「砲雷長、攻撃を許可する。ただし最初は威嚇だ」

 艦長は「あまぎり」が探知できたのを聞くと、CIC(戦闘指揮所)に居る砲雷長へ攻撃の許可を出した。ただし初手は威嚇にすべしと命じた。

 迫る生物がモンスターらしいとしか分からない。

 もしかすると、鯨のような人類への危害が少ない大型生物かもしれない。

 だから近くで爆発を起こして

 「SHは退避せよ、主砲射撃準備!」

 砲雷長は威嚇として、主砲の76ミリ砲の準備を命じた。

 「SHが目標上空を離脱」

 「主砲撃て!」

 砲雷長が命じると、艦橋前にある76ミリ砲が3度撃った。

 「あまぎり」から放たれた砲弾は海面下のモンスターの周囲へ落ち、海面に水柱を立てる。

 「去ってくれよ」と艦長は願うものの、水測員からは「目標、依然としてこちらへ向かう」の報告を受ける。

 「仕方ない。目標を沈める」

 艦長は決心した。


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