第14話 アリア、坂下と挨拶を交わす
「エーギルさん、貴方の国はどうなっているのですか?」
エーギルの求めにまず、アートラス王国の状況を訊く坂下
「モンスターニ襲ワレテイル、コノママデハ国ガ無クナル」
エーギルの返答に坂下は九州に飛来した鳥を思い出した。
「我が国にモンスターを倒す事を求めているのですか?」
坂下の問いに「ソノ通リデス」とエーギルは即答した。
モンスター退治の要請を坂下は考えていなかった。
「我が国はモンスターを倒せる力があると思います。しかし、その力を私の権限で使えません。しかし、権限のある方へ伝える事は出来ます」
坂下は自分の出来る事をエーギルへ伝える。
エーギルの表情は変わらない。
エーギルは使者である坂下が兵を動かせる者とは思ってはいない。権力者に伝達されればそれで良いと考えていた。
「使者殿!使者殿!」
そこへ新たな声がする。どうも女性らしい、焦るような声だ。
「使者殿、姫様デス」
エーギルは声の主について言った。
姫様、つまり王族の人間だ。坂下と木下は襟と姿勢を正す。
水夫達の壁から一人の少女が出て来た。気丈な目、結ばれた金髪、ベージュのロングドレスを着たアリアは気品があるように見えた。
「姫様、こちらが日本の使者サカシタです。モンスター退治についても少し話しました」
エーギルはアートラス語でアリアと話す。
「私が話しても?」
アリアはエーギルへ求めると「どうぞ、サカシタ殿は紳士です」と答えた。
「私ハアートラス王国ノ王女、アリア・バールジーニデス。アートラス王国ヲ代表シテ話タイ」
イルマから翻訳魔法をかけられたアリアは坂下へ食いつく様に言う。
ここで逃すまいとする勢いを坂下は感じた。
(祖国の窮状で追い込まれているのだな)と坂下は理解できたが、それだけに必死さが過ぎて互いに意見が食い違う事が生じてしまいがちだ。
ましてや相手は御姫様、王族だ。失礼があってはならない。
心的に少し腰が引けそうだが、坂下はアリアに向き直る。
「御丁寧な挨拶を頂き感謝します。私は日本国政府の使者、坂下良亮です。姫様、どうぞお見知りおき下さい」
坂下は右足を引き、上半身を屈めて左手を横へ伸ばすボウ・アンド・スクレープの形で挨拶を返した。
その丁寧さにアリアもエーギルも坂下を常識ある者だと理解した。
「姫様、我が国にモンスターを倒して欲しいとエーギル殿から伺いました」
「ソウデス、私達ハ貴方ノ国ヲ探ス為ニコウシテ来タノデス」
アリアの言葉を聞いて坂下は疑問が沸く、アリアは日本がこの辺りにあるのだと分かって来たと聞こえるからだ。
「どうしてここに日本があると分かっているのですか?」
坂下は訳が知りたかった。
「ソノ事情ハ私ガ話シマショウ」
事情を知るエーギルが坂下へ話す。
アートラスの都であるルクイルでアリアが出会った老婆の予言についてだ。
「それでここまで来たのですか」
坂下は驚く顔をそのままに出した。
根拠不明な老婆の予言、それを信じてアリアは皆を引き連れて船旅をしていた。
姫様であるアリアの意志の強さを感じた。
「使者殿、私達ハ日本ヘ行キタイノデス。日本ノ国王ト面会サセテ頂キタイ」
アリアは日本行きを坂下へ求めた。
「それは大歓迎です。是非とも日本へ行きましょう」
坂下はアリアの求めに素直に応じた。坂下は日本政府の面々に直に異世界の人達と対面させて、この事態がどれだけ現実なのかを理解させたかった。
日本政府内では、今の事態はすぐに元通りになると思っている人間は何人も居る。
外務省でも、特殊事態対策本部でもそうだ。
あの鳥はもう来ないとも楽観視する者もある。
そうではないと自覚させるには、現物を見せるしかない。異世界の住人を見せて、日本がこの世界の住人と付き合うのだと分からせる必要が。
「我々の船が案内します。行きましょう」
坂下の積極性にアリアも笑みを見せる。ようやく出会えた国の人間がここまで招こうとしているのだから。
「待ッテ!何カ来ル!」
イルマが日本語の大声で警告する。
「イルマ、何が来るんじゃ?」
エーギルが思わずアートラス語で尋ねる。
「海の中、数は一匹、南から来る」
イルマは目を瞑りながらアートラス語で答える。
エーギルが日本語で坂下へ伝える。
それを聞いていた木下が「あまぎり」へ無線で伝える。
「あまぎり」艦長は「対潜戦闘および、対水上戦闘」を命じた。
「坂下さん、艦長は不明目標に対して戦闘準備を命じました。探知次第攻撃するでしょう」
木下は無線で聞いた情報を坂下へ伝える。
「あまぎり」は「アーガス号」から離れる動きを見せた。
「使者殿?ソチラノ船ハ何ヲシヨウトシテイルノデス?」
どんどん離れる「あまぎり」を見てアリアが心配そうに坂下へ尋ねる。
「姫様、我が国の船、護衛艦の戦いぶりを御見せします。ご覧ください」
坂下は自信満々に述べた。
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