第13話 ファーストコンタクト
「あの船からの<ニホンコク>はアリア様が言う通りに国名であろう。<ゴエイカンアマギリ>は船名か。それでも正体は分からん」
エーギルは「あまぎり」からの手旗信号をそう読み解いた。
だが、日本国と言う国は知らないし護衛艦「あまぎり」がどんな船なのかも知らない。
ただ目の前にある船の名前しか分からない。
船に何者が居るのか分からない。敵か味方なのか分からない。
手旗信号で話が出来たとはいえ、安心はできない。
「あの船からです。<船長と面会したい>です」
「あまぎり」は「アーガス号」へ再度信号を送る。
船長は気が乗らない顔をしながら「さて、会ってやるか」とぼやく。
「船長、私が会おう」
エーギルが名乗り出る。その顔は遊びに行きたい子供のようだ。
「それならお任せします」と船長はエーギルへ任せる。
「私も会う」とアリアが名乗り出る。
しかしセザールが「姫様、それは御遠慮ください」と止める。
「何故止める?アートラス王国を代表して会うのです」
アリアは少し機嫌が悪く言う。
「だからこそです。姫様を人質にされるかもしれません」
セザールはアリアに毅然と言う。
「アリア様、ここはセザールの言う通りじゃ。まずはこの老人に任せてくだされ」
とエーギルが言うものの、アリアは不満のようだ。
「セザール、ワシがあの船が安全だと確かめてから、姫様にも行って貰うのはどうだろう?」
エーギルは提案する。アリアに気を遣っているのだ。
この提案を聞いたエーギルは「その時は私達も同行しますよ」と条件を付けて賛同した。
「姫様、まずはエーギル殿があの船を確かめます。安全だと分かってから姫様に行って頂きます」
エーギルがそう告げるとアリアの顔は分かりやすく明るくなった。
「あの船から<使者を送るので乗船を許可してほしい>です」
エーギルやアリアが話している間に「あまぎり」では搭載している小型艇、内火艇を降ろしていた。その光景を「アーガス号」の船長と水夫たちは興味深そうに見つめる。
「あのボート、漕ぎ手が無いのに動いているぞ」
ディーゼルエンジンで動く内火艇に水夫たちは驚く、内火艇は操舵をする隊員に艇を指揮する隊員、艇の先端で見張る隊員で動かす。オールで漕ぐ事は無い。
そんな内火艇に乗るのは坂下に、護衛の木下二等海尉と二等海曹だ。
海自隊員にしても、「エーギル号」の乗員はどんな人達なのか分からない。
「あの船は海賊船かもしれん。強く警戒して行け」
「あさぎり」艦長は木下二尉へそう指示する。
「もしもの場合は外務省のお客さんを第一に、銃を使っても構わない」
艦長は続けて木下へ指示する。坂下の安全が第一で武器を使用しても良い、とはいえ木下は不安だ。
主砲やミサイルを扱う第1分隊に属する木下であるが、銃を使う対人戦闘は基本を訓練したとはいえ、自信は無い。
「あさぎり」の武器庫から出した64式小銃と9ミリ拳銃だけが武器だ。
「あさぎり」では不審船対策や海賊対処の海外派遣任務で配備された12.7ミリ重機関銃を銃架に据えて「エーギル号」に向けて援護の構えをしている。
とはいえ守る客人があって、正体の知れない船に乗る。
木下は気が気でない。
対して坂下は違った。
ようやく会えるこの世界の住人、この世界をしる入口に立つのだと気持ちは弾んでいる。
顔はにこやかで、険しく「エーギル号」を見る海自隊員達とは真逆だ。
「あの縄梯子へ向かえ」
木下は「エーギル号」から降ろされた縄梯子に内火艇を横付けするように指示する。
「銃は向けるなよ」
木下は緊張する隊員へ言う。
銃が分からなくても、敵対の姿勢に見える真似はやらない方が良いだろう。
「では、行きましょうか」
「エーギル号」へ内火艇が横付けすると坂下は意気揚々と縄梯子を登ろうとする。
「待ってください、私達が先に行きます」
木下は坂下を慌てて止める。
縄梯子は木下と二等海曹がまず登る。二曹は64式小銃をランヤードで肩に引っ提げて登る。
木下は腰のホルスターに9ミリ拳銃を収めながら登る。
船に上がった途端に拘束されないか、最悪いきなり殺されるか悪い予想しか浮かばない。
そうしている内に木下は「エーギル号」の甲板へ辿り着く。
周囲を見れば目つきの悪い野郎達ばかり、ディズニーの海賊を主人公にした映画で見た光景そのものだ。
お互いに険しい目で見つめ合う。
「船長に会いたい!船長に会わせてくれ!」
木下は日本語と英語で「エーギル号」の水夫達に呼びかけるが通じない。
二曹が甲板に辿り着くも状況は変わらない。
それでも「エーギル号」の水夫達に敵意が無いとは木下分かる。戸惑っている。
「誰か?誰か話せる人は居ないか?」
木下はこれも日本語と英語で尋ねるが、水夫達は困るばかりだ。
「木下二尉、船長は?」
坂下も甲板に着き、尋ねる。
「二度、日本語と英語で呼びかけましたが通じません」
「これは手旗信号をするしかないですかね」
そこへ水夫達の輪から老人と少女が出て来る。
「船長とは違うようですが」
木下は訝しる。
「使者ヨ・・・使者ノ方ヨ」
老人が話しかける。日本語だ。
「私が使者です。日本国の坂下と言います、はじめまして」
坂下は日本語で挨拶する。
「ワシハ、エーギルジャ、賢者ト皆ハ呼ブ」
その老人、エーギルは坂下に名乗る。
「エーギルさん、日本語が話せるのですね」
坂下はどのぐらい話せる者が居るのか知りたかった。
「コノ、イルマノお陰デス、イルマハ異国ノ言葉ヲ話セル魔法ガ使エル」
エーギルは隣に立つ少女を指して言う。
イルマはこの翻訳魔法が使える事で地元で生計を立てていた。
行き交う様々な国の商人との仲立ちの仕事が出来たからだ。
この翻訳魔法は自分でも他人でも、かけられた人間がその国の言葉を話せるようになる。
しかし、初めて聞く言語はある程度聞いてからでなければ使えない。
だから木下と坂下の話す言葉でのサンプルが必要だったのだ。
「魔法で外国語が分かると言う事ですね」と坂下が言うとエーギルは頷く。
「使者ヨ、訪問ノ目的ヲ聞キタイ」
エーギルが尋ねる。
「我が国、日本国とあなたの国と国交を結びたい」
坂下が笑みを見せて言う。
「コッコウ?」
まだ翻訳魔法は完全に日本語を訳しきれていないようだ。
「友好関係、国同士仲良くですよ」
坂下は少し言葉を簡単にする。
「ソウイウ事デスカ、分カッタ。歓迎スル」
エーギルは日本の使者坂下が敵対すべき相手ではないと分かると笑みを返した。
坂下は右手を差し出す。するとエーギルは握り返した。
友好の証としての握手は共通なのだと坂下は分かった。
「使者ヨ、我ラも貴方達ヲ探シテイタ」
「どう言う事です?」
「ワシノ故郷デアル、アートラス王国ヲ助ケテホシイカラデス」
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