第12話 護衛艦「あまぎり」が「アーガス号」と接触する

 「船だ!船が見えるぞ!」

 「アーガス号」の水夫が指さして叫ぶ。

 航海を続けて十一日目、空と雲と海しか見ていない水夫にとっては船の発見は久々に見る人間の居る証だった。

 昨日見たP3―Cは空飛ぶ怪物か何かに見えて不気味に思えた。

 P3―Cに人が乗っているとは微塵も思えなかった。それだけに船が現れたのは「アーガス」号以外の人間に会えると思えて喜んでいる。

 東の果て、アリア達は国があると言うけれど多くは何もない海の果てだと思っていただけに。

 「船とな?是非とも話がしたいものだ」

 エーギルは楽しみだと言う。

 「東の国の船なら良いのですが」

 アリアも船の接近に期待を寄せる。

 「お二人共、船が海賊船かもしれいのですよ。見知らぬ船は怪しむべきだ」

 船長は現実的だった。

 「海賊船でも話がしたい。この海に関して少しは知る事が出来るやもしれん」

 エーギルは好奇心の塊だ。危ない相手でも興味が勝る。

 「賢者殿、海賊船と話した事があるのですか?」

 イルマが尋ねる。

 「山賊に捕まって話した事はあるが、海賊とはまだだな」

 エーギルは危機感無く話す。

 「山賊とどんな話を?」とイルマは質問を重ねる。

 「猛獣の習性や山の事だ。山賊は元が敗残兵でな、山で生きる術や猛獣がどんな生き物か知らずにやっていた。ワシの話で勉強になったと解放されたのじゃよ。知識で助かった人生の一例だ」

 エーギルは自慢話のように語る。

 「海賊船でも同じようなれば良いのですが」

 イルマは不安げに言う。

 そうしている間に「アーガス号」に船が近づく。

 形が分かって来るその船に誰もが不安を感じた。

 「マストらしいのは見えるが、帆が見えねえ。それでも早いぞアレは」

 「船体は灰色だ。気味が悪いな」

 「アーガス号」の水夫たちは近づく船を見て不気味に思う。


 その船の正体は護衛艦「あまぎり」である。

 「本当に接近して良いのですね?」

 「あまぎり」の艦長は異世界の住人に近づいて良いのか坂下へ尋ねる。

 自衛艦隊司令部から異世界住人が乗っているであろう船舶との接触は控える様にと指示があったからだ。

 何より、乗っているのがただの船員なのか、海賊なのか分からない。

 「これから接触に向かうのです。外交ですよ。私の仕事で動くのですから大丈夫です」

 坂下は落ち着いた声で艦長へ言う。

 「一つ聞いて良いか?」

 艦長が問う。

 「なんでしょう?」

 「この接触は上から言われたのですか?」

 「いいえ、私が自ら志願したのです。未知の国とゼロからの交渉はロマンですよ」

 「ロマンですか、そう感じられる仕事ができる貴方が羨ましい」

 艦長はそうぼやく様に言った。


 「あまぎり」が「アーガス」号と並走するようになっていた。

 甲板に出ていたエーギルは「あまぎり」を隅々まで見る。

 イルマも「あまぎり」を見ていたが、彼女は主に見える「あまぎり」の乗員の姿を眺めている。

 アリアは「あまぎり」の旗を見つめていた。

 艦尾に掲げてある旗だ。

 「白地は同じだけど、赤い玉とは少し違うように見える」

 護衛艦の艦尾に掲げている自衛艦旗、旭日旗とも称されるこれはアリアが探している日章旗とは異なる模様をしている。

 アリアが迷うのも仕方がない。

 「イルマよ、どう見る」

 エーギルは問う。

 「よく分からない船、乗っている人間は警戒心が低い」

 イルマは端的に答えた。

 「あまぎり」の乗員は無警戒と言う訳ではないが、銃を構えるなど敵対の姿勢を見せないようにしている。それがイルマには警戒心が低いと見られたのだ。

 「そうだな。帆の無い動力がよく分からない船じゃ。ますます気になって来た」

 エーギルはイルマの答えに満足しているようだ。

 「賢者殿、あの船が東の国の船に見えますか?」

 アリアが問う。

 「東の国かは分かりませぬ。しかし今まで見た事が無い船なのは確かだ」

 エーギルのはっきりしない答えにアリアは少し焦れる。

 「どうにか、話せぬのか?あの船の者と」

 アリアと同じ思いを「あまぎり」も感じていた。

 探照灯での発光信号や手旗信号を試みる。

 「なんじゃ光って、点滅を続けておる」

 「賢者様これは?」

 「分からん。そもそもアレはどうやって光っている?」

 発光信号は通じなかった。

 次に手旗信号を試みる。

 「今度は手旗信号か・・・船長どうじゃ?」

 エーギルが訊くと船長は首を振る。

 「あまぎり」の乗員による手旗信号は和文手旗信号と呼ばれる、日本式の手旗信号だ。

 やはりこれでは通じない。

 「船長、こっちも手旗信号で何か伝えようではないか」

 エーギルの提案に船長は「では、何と言います?」と尋ねる。

 エーギルは「貴船は何者か?」と提案する。

 「アーガス号」の水夫が広げた手ぬぐいの布を手旗に見立てて信号を送る。

 「目標の船から手旗信号です。これはモールス式に似ている」

 「あまぎり」では通じた。

 無線のモールス信号を手旗の動作で表す方法だ。

 「分かるか?」

 艦長が問うと、信号を担当する二等海曹は二分後に答えた。

 「貴船は何者か?です」

 そう聞くと坂下は初めて話が通じた事に喜び、「艦長すぐに返事を」と言う。

 「対象の船に返信、ワレハ日本国ノ護衛艦<あまぎり>ナリだ」

 艦長の指示でモールス式で送られた返事

 しかし、誰もが首を傾げる。

 「このニホンコクと言う国が東の国に間違いない!」

 アリアは東の国の国の存在を掴んだように感じた。

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