第11話 災害派遣継続決定

 「自衛隊が鳥の駆除に成功しました。自衛隊に被害はありません」

 午前十一時三十分に東京へ鳥の駆除成功の報告が届く。

 誰もが「これで良かった」と安堵する。

 安堵していない者が居る。市ノ瀬だ。

 「あの鳥はまだ居るだろうし、未知の国々、思っているよりも危険な世界に来てしまった」

 脅威が消えて、市ノ瀬は改めて日本の置かれた状況を思う。

 中国や韓国・北朝鮮・ロシアが消えて、中世ヨーロッパのような光景が広がる世界があった。国名も指導者も知らない国々がある。

 そして鳥のような人を襲う生物の存在

 まだこれから解決すべき問題は山積みだ。

 頭が痛いとさえ市ノ瀬は感じた。

 「良かった。お前は浮かれていない」

 そこへ辻川が話しかける。

 「浮かれる気持ちになれませんよ」

 「そうだ、何も解決していないからな」

 辻川も市ノ瀬と同じ事を考えていたようだ。

 「どうしましたお二人さん?」

 市ノ瀬と辻川の様子を見て坂下がちかづく。

 「まだまだ問題は山積みだと話していた」

 市ノ瀬が答える。

 「その通りです。発見された国々とどう交渉するか、いや挨拶をするか何も決めていないですからね」

 坂下の言う事に辻川は「お、良い事言うね」と興味を持つ。

 「良い事ですか?」と坂下は辻川の言う事が分からない。

 「やる事を自覚できる奴は俺は好きだぜ」

 辻川は坂下へ笑みを見せる。

 坂下は市ノ瀬と直に話す人物に気に入られたのだと理解できた。

 市ノ瀬と辻川に近づければ外務省として、いや自分の仕事がやり易いと思っての接近である。

 その目的は果たせられた。坂下の打算はひとまず成功した。


 「災害派遣はまだ続けた方が良いと?」

 午後四時、総理官邸で閣僚会議が開かれる。

議題は鳥の被害に関しての報告や自衛隊を撤収させるかである。

市ノ瀬は異常事態対策本部として自衛隊の任務継続を提言した。

 「またあの鳥が飛来する可能性はあります。警戒態勢は続けるべきかと」

 市ノ瀬の自衛隊派遣継続の提言の理由を述べた。

 「何か、餌で引き寄せて街を襲わせないようにできないかね」

 法務大臣の堀川が言う。

 「あの鳥、人を食う以外で何を食べるんだ?」

 横川が疑問を言う。

 「牛なり豚なりの肉を置けば良いのでは?」

 西島はそう投げやりに言う。

 「その肉を調達し続ける予算と、自衛隊の弾薬の予算、どちらが安く済むだろうか」

 財務大臣の福好が言う。

 「海外からの輸入の目途が立たない時に、肉を怪獣食わせては国民の食べる分が無くなりかねない」

 農林水産大臣の明石が懸念を言う。

 「肉を食わせるより、自衛隊で叩き落とすのが一番だ」

 副総理兼金融大臣の大瀬良が断定する。元総理でもある大瀬良の発言は重みがある。

 「私も副総理と同意見だ」

 総理である藤原が言うと流れは決まった。

 こうして自衛隊の災害派遣は継続と決まった。

 鳥が何処を巣にしているのか不明な為に北海道から沖縄まで、全国の自衛隊が展開して警戒態勢に入る。

 陸自の部隊が日本海沿岸の都市部に展開して、公園などに野営地を構えて備える。

 海自の護衛艦も外洋へ出て鳥の襲来に備える。

 空自も戦闘機による警戒飛行を始めた。

 アリア達を乗せた船が海自のP-3Cに発見されたのは、日本がそんな状況にあった時だった。

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