第9話 災害派遣出動

 「自衛隊であの鳥を撃ち落とすか。法的に大丈夫なのか?」

 午前九時半、総理官邸で市ノ瀬は藤原へ自衛隊の出動を「異常事態対策本部」の提言として報告した。

 「有害鳥獣駆除の災害派遣で出動はできます。過去に訓練名目ですがトドに対して機関銃を使用し、駆除しています」

 市ノ瀬と共に官邸へ来ていた生田が説明する。

 一九五〇年代から一九六〇年代に北海道で漁業被害をもたらすトドを駆除して欲しいと言う住民の求めに応じる形で自衛隊が駆除を行った。

 名目は射撃訓練で、岸から機関銃を海へ向けて放ち戦闘機も空からトドへ向けて射撃した。自衛隊で害獣に対して武器を使用した唯一の出来事である。

 「出来るなら早く出そう」

 藤原はすぐに閣議を開催する。政府による自衛隊の災害派遣出動を要請して、鳥を駆除する案を審議する。

 この閣議の前に佐賀県鳥栖市で運送会社のトラックドライバーが鳥に襲われたと報告が入る。

 配達で荷物を降ろしている所を襲われ、連れ去られたと言う。

 これで鳥に連れ去られたのは三人になる。

 「では、自衛隊の出動、宜しいですね」

 増える犠牲者に自衛隊の武器使用を含める出動要請に閣僚で反対意見は無かった。

 正式に政府から自衛隊へ出動要請が出されたのは午前一〇時五分であった。

 この自衛隊への要請は鳥の行動範囲が不明である為に、全国の自衛隊部隊が対象となっている。


 「政府より有害鳥獣駆除による災害派遣が要請された。武器使用も認められている」

 防衛省統合幕僚監部、自衛隊制服組の総本山では統幕長の大石海将をはじめ幕僚が集まりこの時を待っていた。

 大石は巨大な鳥が九州で住民を襲っていると聞いて、午前九時には統幕で害獣駆除の可能性を検討させていた。

 「まずは空自の戦闘機で対処、地上への降下に備えて陸自を展開させます」

 すでに話し合っていた事もあり、すぐに鳥への作戦方針が定まる。

 戦闘機で鳥を撃墜または撃退、傷を負い地上へ降りた場合は陸自で止めを刺す。それが統幕で定められた作戦方針だった。

 統幕はより長期になる事を予想して、海自の護衛艦を出動させて海上での警備と迎撃も行う準備も命じた。また空自と陸自の高射特科も駐屯地や基地での展開も命じた。

 こうした作戦方針と計画が統幕長より全国の自衛隊部隊へ伝達されたのは午前一〇時十五分であった。


 「すぐに戦闘機を出せ」

 九州地方・中国地方・四国地方の防空を担う空自西部方面航空隊司令部では待っていたとばかりに丸川司令は命じた。

 この丸川の命令に応じてスクランブル待機をしていた二機のF-2が築城から出撃、宮崎県新田原基地からもF-15が二機出撃した。

 どれもスクランブルに備えて実弾が装填された機関砲と四発づつの空対空ミサイルを装備している。

 「まずはあの鳥を地上に下ろすな。戦闘機で気を引かせるんだ。それから海上へ誘導してから駆除だ」

 丸川は作戦を指示する。

 まずは国民を守る為に地上へ鳥を降ろさせない。

 方法は戦闘機で鳥の関心や気を引かせて、鳥に戦闘機を追うように仕向ける。

 そこから海に面した空域に誘導して戦闘機で撃ち落とすと言う作戦だ。

 「那覇のE-2Cは三〇分後に奄美沖から鹿児島上空へ来ます」

 「岩国の海自も捜索機を出すと連絡」

 鳥の捜索に那覇基地の早期警戒機と、山口県岩国基地から海上自衛隊のOP-3C画像情報収集機とU-36A訓練支援機が一機づつ出撃した。

 陸では九州各地へ陸上自衛隊西部方面隊の第4師団と第8師団が出動、山口県でも中部方面隊の第13旅団第17普通科連隊が山口市や下関市に岩国市へ部隊を送り出していた。


 鳥は九州の内陸を飛行していた。

 そのせいか住民が目撃しての通報や警察・消防・自治体が発見した情報が丸川の司令部へ届く。

 しかし、移動する目標に対して目撃と言うタイムラグの大きな情報は正確さを欠いた。

 それでもだいたいどの辺りを飛行していたかの推定は出来る様になる。

 そこへ民間空港のレーダー情報に、展開して稼働した陸自高射部隊の移動式レーダーによる探知情報が位置情報の裏付けとなる。

 九州各地にも空自のレーダーサイトはあるが、九州の外から来る飛行物体に対しての探知が主だ。

 内陸部となると、早期警戒機や地上の移動式レーダーによる探知が必要となる。

 「阿蘇山の周りを飛んでいるのか。プラム01を阿蘇山へ向かわせろ」

 こうして導き出された鳥の位置

 丸川は新田原から出撃した二機のF-15、コールサインプラム01とプラム02を阿蘇山上空へ向かわせた。

 「プラム01、目標を視認した。これより誘導を開始する」

 午前一〇時五十二分、プラム01とプラム02のF-15は阿蘇山上空で鳥と接触する。

 「こっちだ。こっちに来い!」

 二機のF-15は鳥の目の前を何度も往復する。

 さすがに鳥もこのF-15が目障りに思い、不快だと言う様に叫ぶ。

 「どうやら怒らせたようだ。いいぞ」

 プラム01のパイロットは鳥を怒らせて追いかけさせようとする。

 鳥はその策に乗せられたようにプラム01とプラム02を追いかけ始めた。

 「プラム01、九州西部の外洋へ誘導せよ」

 丸川は四国や中国地方へ飛んで行ってしまう、九州東部の豊後水道や瀬戸内海ではなく、九州西部の広い東シナ海に誘導し、攻撃するつもりだった。

 「目標とプラム01とプラム02、長崎市上空を通過」

 午前十一時十五分ごろ、鳥は二機のF-15を追って長崎市上空を通過した。

 「もう少しだ」

 丸川は作戦はもうすぐで終わると思っていた。

 五島列島と長崎市の間の東シナ海で撃ち落とすだけだと。

 「第15警戒隊より連絡、不明機らしき飛行物体を探知」

 五島列島にあるレーダーサイトからの緊急連絡だった。

 「飛行中のパンサー03とパンサー04を新たな不明機へ向かわせろ」

 築城から出撃し、プラム01とプラム02の支援に長崎沖へ向かって飛行中の二機のF-2へ丸川は命じた。

 新手の鳥でも問題は無いだろうと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る