第8話 巨大鳥九州を襲う!
四月五日の早朝、航空自衛隊西部航空方面隊のレーダーサイトは国籍不明の飛行物体を探知した。
日本語のみならず、中国語やロシア語による無線での呼びかけに応じない。
その飛行物体に対して福岡県築城基地から二機のF-2戦闘機がスクランブルした。
「あれは鳥だ。間違いなく鳥だ」
不明の飛行物体と遭遇したF-2のパイロットは報告する。
「鳥だって?」
「そうだ鳥だ。だが五メートルぐらいの大きさがあるぞ」
ここで防空指令所に居る航空団司令は改めて「本当に鳥か?」と尋ねた。パイロットは「間違いなく鳥です」と断言した。
丁度、航空方面隊司令官が登庁したのもあり、「五メートルの鳥」について報告した。
「鳥なら大丈夫だろう。戦闘機は帰投させてよい」
大きな鳥であるが、戦闘機で追い続ける必要は無いと判断した。
午前六時四十二分にF-2は鳥から離れ、築城基地へ戻った。
西部航空方面隊は航空総隊司令部に「五メートル鳥」の報告をする。
この異常な現象は何であれ報告せよと防衛大臣からの通達があったからだ。
珍生物の出現と言う扱いで航空総隊から空幕・統幕を経て防衛省内局を通過し、「異常事態対策本部」に届いた。
しかし、ようやく官僚や実務のスタッフが揃ったばかりの本部
そこへ緊急性の低い報告が見られる事は無かった。
西部航空方面総監は独自の判断で、九州の各県に「五メートルの鳥」について通達したものの、「大きな鳥が通るらしい」と自治体の職員は思った。
ただ大きな鳥
誰もが危険だと思っていなかった。
午前七時半ごろから、長崎県で「大きな鳥を見た」とSNSで挙がるようになる。警察や消防も報告を上げる。
八時ごろになると、全国ネットのニュース番組が「長崎県に巨大鳥出現」と報道する。
その報道はSNSで流れている画像や動画を取り上げ、「こんな鳥は見た事ないですね」「新種ですか?それともフェイク?」とキャスターや解説者は珍しいモノだと語る。
だが、悲報はすぐに上がった。
「バス停で人が大きな鳥に襲われた!」
午前七時四八分、長崎県平戸市で消防と警察に通報が同時に来た。
バス亭にいきなり五メートル鳥が舞い降りて、くちばしでスーツ姿の青年を咥えると飛び去った。
六人居たバス亭は、鳥に連れ去られた一人以外も鳥の足や翼で全員が怪我をしたり、驚いて転倒してしまい骨折した老婆も居た。
そんな現場を目撃した何人かが携帯電話で消防と警察に通報したのだ。
午前八時一〇分、松浦市にある高校で部活の朝練をしていた女子生徒が鳥に咥えられて連れ去られた。
これも目撃した生徒と、居合わせた野球部顧問の教師が目撃した事で学校から警察に通報された。
長崎県警から知った警察庁、平戸市と松浦市消防局からの情報で知った総務省消防庁は「異常事態対策本部」へ鳥の被害を伝達したのは午前八時四〇分であった。
「早速、この鳥について会議だ」
市ノ瀬は挨拶を済ませたばかりの官僚達の主だった面々を会議室へ呼ぶ。
「罠を仕掛けて猟友会により駆除をしては」
総務省の尾倉がまず言った。
人を襲う動物、これをどうするか。
熊が人を襲う今までのケースで考えるなら、罠を仕掛けて猟友会により駆除となる。
「鳥の習性も巣も分からない。行動範囲の広さを考えるなら、最低でも九州北部に罠を一〇〇個は置かねばならないと思います」
環境省の月村が言う。
確かについさっきその存在を知った鳥、名前さえ無い未知の生物なのだ。
どこに巣があって、縄張りにしているのか?それを知らずに罠を仕掛けるとなれば広く、多く罠を置かなければならない。
「一〇〇個の罠を作る間に被害は増えるばかりだ。自衛隊で駆除をするべきでは?」
警察庁の清水が言った。
「自衛隊の出動、野党や世論は大丈夫だろうか?」
文部科学省の栗原が心配げに言う。
「気にする必要は無いだろ」
そう言いながら会議室にいきなり男が入って来た。辻川だ。
「総務省から来て貰った事務局長補佐の辻川さんだ」
市ノ瀬は誰だと戸惑う官僚達へ紹介した。辻川は空いている一番端の席へ座る。
尾倉は嫌そうな顔で辻川を見ている。知っているようだ。
「辻川さん、人を襲ったとは言え動物の駆除に自衛隊が出て行くのは政治問題になると思うのですが」
栗原は辻川へ問いかける。
「政治問題?それよりも行方不明二人、負傷五人以上の被害を食い止める方が先だろう。自衛隊の戦闘機ですぐに撃ち落とすべきだ」
辻川の言い方に栗原は眉をひそめ、尾倉はため息をしたような表情になる。
現実問題と政治問題をいかにクリアして、物事を進めて来た官僚達にとって辻川の政治問題を無視した言い方は受け入れ難いものがあった。
市ノ瀬は逆に均等や中間を取り入れたがる傾向を無視できる辻川のやり方を歓迎した。
「防衛省は鳥の駆除に賛成ですか?」
尾倉がいきなり防衛省の生田へ尋ねる。生田はやっと回った出番だと答える。
「昔はトドの駆除に機関銃を使う事もありました。有害鳥獣駆除での出動は可能です」
生田は賛成も反対も言わない。ただ出来るかどうかしか言わない。
「なら早く自衛隊を出すべきだ」
辻川が急き立てる様に言う。
「福岡県警が福岡市上空を鳥が飛行中と報告」
清水が報告する。
「何処へ向かっているんだ?」
市ノ瀬は思わずそう言う。鳥は西から東へと向かっている。
「事務局長、報告があります」
生田が手を上げて申告する。
「在日米軍からです。問題の鳥が在日米軍基地と関係する施設などを襲った場合、軍人とその家族の生命を守る為に防衛の戦闘をすると通告しました」
「そら、米軍が動くぞ」
辻川は囃し立てる。
「米軍が先に動くのはマズいですよ事務局長」
坂下が市ノ瀬へ話しかける。
「この先、在日米軍との関係を考えると自衛隊が先に出た方が良いです。日本を守った先陣が米軍では貸しを作る事になる」
坂下の言う貸し。
これはアメリカ政府があればそんな事は無い。
だが、日本列島以外が入れ替わったような状況では在日米軍は主無き軍事勢力である。
今後の展開では在日米軍は独立勢力として日本政府と交渉をするかもしれない。そうれば日本国民を助ける為に自衛隊より先に出動した事を大きくアピールするだろう。
「確かに、米軍が先に動いてはならない」
市ノ瀬は坂下の言う事を理解した。
「情勢は急を要します。総理と官房長官へ鳥の対処に自衛隊を出動させ、駆除を行わせるべきだと提言します」
市ノ瀬は皆へ告げた。
異論は無かった。米軍の影が皆に反論の余地を無くした。
外国の影響力が決定づける。今までの日本と同じ構図に市ノ瀬はやれやれと思わずにいられない。
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