第6話 異世界初日の現代日本

 護衛艦「あまぎり」に乗った坂下は日本政府を代表して、異世界の人間と接触する。

 これが最初の接触になろうとしていた。

 令和の現代日本が異世界の東の海にあるのは何故か?

 これはアリア達がP-3Cと遭遇する七日前に遡る。

 

 令和X年の現代日本

 日本列島全域で地震が発生した。

 その地震は奇妙で、全国が同じ時間に発生した。

 小さな揺れから徐々に大きくなる。

 この揺れる中で「空にオーロラが出た」「空が光った」など空で起きた異常が目撃される。

 更に空が曇るまたは、夜のように暗くなった。

 空からの光量は無く、文字通り真っ暗になった。

 真っ暗な中に置かれた日本列島は異世界に飛ばされた。

 時に令和X年三月末の事である。


 地震が静まり、空も青く快晴さを表し落ち着きを取り戻す。

 日本政府はまず、地震での損害を知ろうとした。

 最大震度四の地震による損害は、古い木造の民家が半壊したり、土砂崩れや道路のひび割れ程度に留まった。

 死者も地震の揺れで階段から落ちた老人一人だけだった。

 深刻ではない被害に政府は安堵できなかった。

 「衛星と海底ケーブルによる回線が不通です」

 変化は地震が止んでから一時間後から報告が上がった。

 日本の上空にある筈の衛星や、周回する情報収集衛星どれとも連絡ができなくなった。

 隣国との電話やネット通信が出来なくなった。

 どうも海底ケーブルによる回線が不通だと判明した。

 次いで、外務省が他国にある大使館・領事館との連絡が出来ないと報せ

 国土交通省も日本国外から飛来する予定の旅客機が来ないし、レーダーの反応がない。

 また、韓国・中国・台湾・フィリピンなどへ向かう国際線の旅客機が到着地の空港と連絡ができないとして日本へ引き返していた。

 防衛省はロシアや中国・韓国など周辺国の無線通信やレーダー波の発信が無いと報告した。また、在日米軍は本国との連絡ができないと言う。

 「まるで日本以外の国が消えたみたいだな」

 総理大臣の藤原典夫は様々な報告を聞いてそう思った。

 「まさか、地震のせいで通信に異常が起きているだけですよ」

 内閣官房長官の横川清治が日本以外が消えた事を否定する。

 これは誰もがそう思って当然だ。

 日本以外が消えるなんて現実とかけ離れている。

 「しかし、稚内からサハリンが見えなくなった。対馬から韓国が見えないと言う報告があります」

 総理大臣補佐官である市ノ瀬尚吾が言う。

 海に囲まれた日本で隣国を見られる場所は少ない、北海道の最北端にある稚内からは樺太もといロシア領のサハリンが見える。

 九州と朝鮮半島の間にある対馬、ここからは韓国が見える。

 どこもそうした隣国が見えないと、所在の自衛隊や海上保安庁が報告している。

 「明日、自衛隊が偵察機を出します。それで状況が分かるかと」

 防衛大臣の江田健次郎が報告する。

 「まずは明日の報告を待とうではないか」

 藤原はそう言ってこの日の方針を定める会議は終わる。

 翌日、日の出から各地の自衛隊基地から偵察機が出発する。

 その偵察機は発見した陸地を見つけ、装備しているカメラで撮影する。

撮影した画像はネット回線が使えない為に、基地に戻ってから提出された。

 基地から直に統合幕僚監部へ、有線の回線で画像データが送られる。

 統幕から防衛省情報本部と防衛省大臣官房へ届けられ、大臣官房から内閣危機管理センターへ送られた。

 「何だこりゃ?冗談か?」

 藤原は見せられた偵察の画像を見て困惑した。

 どれも藁葺きの屋根の家々が集まる村、板瓦の屋根で二階や三階建ての家々に西洋風の城がある都市

 ビルやアスファルトの道路・鉄道に電線は見当たらない。

 どれも二一世紀とは思えない光景だ。

 「どの偵察機も同じ様な画像を提出しています。パイロットの証言も画像と同じモノを見たと証言しています」

 説明をする統合幕僚長の大石和成海将は淡々と説明する。

 異常な事態を感情を交えて説明するのは真実味を薄める。

 「日本の周辺がこうだと?中国も韓国もか?」

 藤原はそれでも受け入れ難いと言う。

 「偵察機は上海や香港・ソウルに到達する距離まで飛びました。しかし、何処にもビルが並ぶ大都市は見えなかったそうです」

 大石の「本当にそうなのか」と困惑している。

 「画像に写るのは、どれも中世ヨーロッパみたいですね。大昔の中国や朝鮮半島ならこんな建物は無い。日本の周りは別の国になっている可能性があります」

 市ノ瀬はこう言ったものの、藤原は「別の国とは何だ?分からん事を言わないでくれ」と苛立つ。

 「総理、もしかすると日本が大昔のヨーロッパの近くに来てしまったか、未知の国家が現れたと考えられます」

 こう市ノ瀬が改めて言ったものの、「どうも頭が追いつかん。日本の周りがよく分からない事になっているんだな?」と藤原は返すのがやっとだった。

 「総理、この事態に専任の対策本部を作るべきです」

 横川は提案した。

 理解し難い事態であるが、国家としてやる事がある。

 それを考える部署を作るべきだと横川は言うのだ。

 「それが良い。ただちに取りかかってくれ」

 この日の内に内閣で「特殊事態対策本部」設立の閣議決定が出された。

 翌日、市ノ瀬が「特殊事態対策本部」の事務局長に任命された。(ちなみに本部長は内閣官房長官の横川である)

 

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