第3話  アートラスの姫アリア(1)

 大野や自衛隊が異世界でモンスターと戦う理由

 理由を述べるには、はじまりの出来事を語らねばならない。


 それは一隻の船から始まる。

 アーガス号と言う交易船だ。

 西から東へ向かうその帆船はには一人の姫が乗っている。

 アリア・バールジーニ、バルジーニ王家の王女である。

 「おはよう船長、船はどうですか?」

 アリアは長い金髪を侍女に束ねて貰うと、船長へ会う。

 「これは姫様、おはようございます。船は大丈夫ですよ」

 昨夜は嵐だった。

 暴風で荒れた海にアーガス号は大きく揺さぶられ、翻弄された。

 マストが倒れないように、浸水箇所を塞ぐなど船員達は一晩中動き回っていた。船内でアリアは眠れぬ夜を過ごした。

 アリアは大揺れする船では、一番上等なベッドでも寝れるものではない。それ以上に寝れないのはこのアーガス号が沈むのではと言う不安があった。

 不安は自分の死と言う恐怖ではなく、使命が果たせない恐れがあるからだ。

 アリアの使命、自分の一族の王家が統治するアートラス王国を救う国に向かうことだ。

 嵐の海でアーガス号ごとアリアが沈んでしまうと、その助けとなる国へは行けない。王国から次の使者が行く事は無い。

 何故なら、東の国と言うモノがあるかどうか分からないからだ。

 「姫様、無礼を承知で言います」

 船長は意を決するように言う。

 「このまま東へ進まれますか?」

 「はい。船が大丈夫であるなら」

 アリアは当然と言う態度で言う。

 「確かに船は、今は無事です。しかしもう一度嵐に遭えば、マストは倒れ、船内に穴が開いて最悪沈みます」

 船長は自分の船に起きるかもしれない最悪の事態について述べる。

 一度の嵐に耐えたとはいえ、二度目は厳しいと。

 「嵐が無ければ大丈夫なのですね?」

 アリアはそれでも進みたいと意志を伝える。

 「そうですが・・・」

 船長はどこか消極的だ。

 アリアはそんな船長の気持ちが理解できない。

 「おはよう姫様に船長、ご一緒で歓談ですかな?」

 そこへ一人の老人が現れた。ローブに覆われた細い身体であるが、にこやかな態度である。

 「これは賢者様、姫様に航海を続けるか、お話をしていたところでして」

 船長は賢者と呼ぶ老人へ、助けを求めるように言う。

 「なるほど。それを決める頃合いですな」

 賢者は納得する。アリアは分からない。

 「賢者殿、どう言う事?」

 アリアは賢者へ訪ねる。賢者の名はエーギルと言う。

 「出港して今日で十五日、海図に載っていない海に出て十日目になりますな」

 エーギルはそう答えるもアリアは分からない。

 「姫様、ここまで東の海を探し回っても見つからないのです。東の国は無いのかもしれないですぞ」

 エーギルははっきりと言う。

 アーガス号は東の国を探すべく、未知の海で北や南へ寄りながら東へ向かった。

 だが、陸地は見えず、鳥も見えず、国があるような欠片は無い。

 絶えず青い海と空しか無い。

 アテの無い旅を続けるには、そろそろ区切りをつける頃合いだと船長は本当に言いたかった事である。

 「もう帰ると?」

 「それを考える頃です」

 エーギルははっきりと帰るべきと言わない。

 自分はあくまで助言者だと言うスタンスだ。

 アリアは考える。

 承知してくれたとはいえ、ただ東へ向かうアテの無い旅をさせている。船長や水夫達は疲れ果てているだろう。

 だが、ここで引き返してもう一度来れるだろうか?

 王国を救う道を手放すのではないかと不安になる。

 航海を続けるか、アリアがすぐに答えが出ないほどに「東の国」に執着する理由とは何か?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る