第2話 戦闘開始(2)


 「バイコーン、Fラインに到達」

 大野が指揮所に戻ってすに、隊員が報告する。

 「MCV小隊前進、戦闘開始はMCV小隊指揮官に任せる」

 大野の命令を受けて機動戦闘車四両の小隊が動き出す。

 「御来賓の皆様、モンスターに対してこれより戦闘を行います。ご覧ください」

 見学者達の面倒を見る森下は拡声器で案内する。

 「あの鉄車だけで行くのか?」

 パイプ椅子から、隊員の休憩室にあったソファに変えて貰ったソルマルクは拍子抜けする。

 自衛隊と初めて会った時にも見た機動戦闘車

 大野は機動戦闘車を、大砲を積んだ金属の盾に覆われた車であると説明した。なのでソルマルクは鉄車と呼んでいた。

 「何を考えているか分からぬな」

 とは司祭

 「頼むぞ、隊長さん」

 この戦闘で倒せなければ自分達の村が襲われる村長達は祈る。

  「金比羅五より各車へ、初めての実戦だ。しかも見学者も見ている。でも気にするな、作業をいつも通りにやれ」

 機動戦闘車小隊を率いる上田二等陸尉は部下達に呼びかける。

 この初の実戦が地元有力者に向けたアピールを含む事は承知していた。

 だからこそ緊張し過ぎてミスをするのは避けたい。

 「あれがバイコーンか」

 上田は肉眼でバイコーンを見た。森の木々を揺らし、葉を振り撒きながら森を出た巨大な獣であった。

 水牛やバッファローを大きくしたような四本足のモンスター、それがバイコーンだ。それがゆっくりと進む。

 「これだけデカいなら何処でも当たる」

 バイコーンは高さ五メートルもの大きさがある。外れる訳がないデカさだ。

 「金比羅五よりCP(指揮所)、バイコーンを発見、数は五匹」

 「CP了解、戦闘開始は任意」

 上田は大野に報告する。

 事前の無人機や海自の哨戒ヘリによる偵察で、把握していた五匹のバイコーンと合致する。

 「金比羅五了解、これより戦闘を開始する」

 上田は戦闘開始を伝える。

 「金比羅五より各車、弾種、対戦車榴弾」

 すぐに上田は小隊に戦闘用意を命じる。

 機動戦闘車の百五ミリ砲に、成形炸薬弾である対戦車榴弾を装填させる。

 「距離一〇〇〇mで、目標の前を横切りながら撃つ」

 上田はバイコーンをどう攻撃するかを伝える。

 バイコーンの前を横切りながら、走りながら撃つと伝える。

 走りながらの射撃は機動戦闘車の得意とするところだ。上田は見学者へのアピールポイントが増えたな感じた。

 「小隊、右へ旋回、縦隊」

 上田は小隊を右へ針路を変えさせる。

 機動戦闘車四両がバイコーンの前を横切る形になる。

 「何だあれは?何がしたい?」

 「なんと無謀な」

 「あれじゃ潰されちまう・・・」

 見学者達は誰もが機動戦闘車がバイコーンの足に潰されると思った。

 「小隊、砲塔を九時に回せ」

 上田の指示で四両の機動戦闘車が真横に砲塔を回して、バイコーンに向ける。

 「小隊、個別に狙え!・・・撃て!」

 機動戦闘車四両は走りながら撃った。

 その砲撃はバイコーンの首や頭部に命中した。

 「命中、撃ち方待て!」

 砲弾に貫かれたバイコーン三匹が悲鳴のような声を上げて、足の力が抜けて倒れる。

 「やりおった、一撃で・・・」

 「なんと・・・」

 「すげえ!一撃で三匹も」

 見学者達は一様に驚嘆する。

 これまで何度も傷をつけて倒したモンスターが、一撃で倒されるのを見せられたからだ。

 「残る一匹を倒す。小隊、弾種対戦車榴弾、集中、撃て!」

 今度はバイコーンの真横から四両の砲を集中させて撃つ。

 腹部から頭部に四発も受けたバイコーンは、短く嘶くと真横に倒れた。

 「金比羅五よりCP、目標を全て撃破した。帰還する」

 「こちらCP、御苦労だった」

 大野は満足した。この機動戦闘車の活躍を見て、領主でも司祭でも、実力を認めるだろう。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る