第3話 元就出陣

 元亀四年一月の下旬、毛利元就率いる一万の軍勢は村上水軍によって瀬戸内海を渡り、和泉の国に上陸する。

 「毛利殿!よく来てくださった!」

 元就を出迎えたのは石山本願寺を率いる本願寺顕如だ。

 朝倉家・浅井家と並んで信長と戦い続ける勢力の一つである石山本願寺、資金力や政治的な影響力は信長の対抗勢力では最大規模である。

 そんな石山本願寺が信長と戦う理由、信長から顕如へ石山を退去せよと言う求めがあったからだとされる。

 それまで信長との協調路線を取っていた顕如であったが、本拠地である石山を去るのは、顕如が信長の意に従う屈辱だけではなく、富を生む立地を手放す実利の問題もあった。

 「合力してくださる毛利殿の信心、御仏に届きますぞ」

 顕如は元就を褒めちぎる。本願寺は周囲の国人衆や門徒を動員しているが、大名など諸将で本願寺と手を結ぶ者は居なかった。

 それ故に顕如は元就を過剰でも歓迎する。

 「来て良かったですな。ここまで喜ばれるなら」

 元就へ機嫌良く言うのは吉川元春である。

 元就の出陣にあたり、小早川隆景と輝元に領国の守りを任せていた。元就が連れて行ったのが元春だった。

 毛利家で武勇を誇る元春

 信長との戦いにあたり、力強い武将が必要だ。元就の槍となる将が。

 それが元春だった。

 「聞き流せ。これからいがみ合うであろうからな」

 元就は元春に言い聞かせる。

 「毛利はこの一万のみと?」

 場所を移して顕如と元就は向かい合う。

 その時に毛利は引き連れて来た一万の軍勢だけで戦うと元就は述べた。

 「九州の大友、四国の三好が危うい。領国は手薄にできませね」

 元就の言い分に顕如は納得できるが、物足りなさを感じた。

 「それにこの戦は元就の私戦、信長打倒と言う意味では心を同じくしているが、誰かの配下となり戦い申さぬ」

 元就は釘を刺すように顕如へ伝える。

 一瞬、顕如は眉をひそめ苦笑いをした。

 「心の内はどうあれ、共に戦う者が増えるのは嬉しき事なり。この石山で落ち着かれよ」

 顕如は寛容なる態度を示した。

 さすがは本願寺を束ねる僧侶だと元就は感心した。

 「心遣い感謝致す。ですが、本拠となる城へ向かいますので」

 元就の言に顕如は首をかしげる。

 「この近くに毛利家の城がありましたかな?」

 「無いので、取りに行く」

 「なんと!?」

 顕如はその大胆さに面白いと笑む。

 元亀四年一月末、毛利軍は淀川北岸にある大和田城を攻める。

 水軍を使い、毛利軍は海から攻めた。

 大和田城を守るのは織田に寝返ったばかりの荒木村重

 村重は毛利軍が岸に上がると、兵を引き連れて有岡城へ退却した。

 「恵瓊が上手くやったか」

 元就はなぜ村重が開場したのか分かっていた。

 毛利家で外交や調略を担う安国寺恵瓊が村重を動かしたのだ。

 「毛利家は本願寺に味方する。その際には大和田城を貸して頂きたい、荒木殿とは戦うつもり無い故、どうか」

 この恵瓊の説得に村重は乗ったのだ。

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