第17話 結果報告楽しみにしてるのだよ

 大阪城から二人で並んでひとまず駅に向かう。どこに行くにせよ、車がないので公共交通機関を使う他ない。酒蔵のスポットは調査済みだ。

 …念のため、宮本さんからもらったデートスポットリストも参考にさせてもらおう。

 

 「空風さんはいきたい酒蔵とかあるの? 」

 『そうですね、地酒巡りをしてみたいのですが、喉が渇いてしまって』

 「あっおっけーなら先に、どこかでお茶でも……」

 

 なんかナンパの手口みたいに言ってしまった…。引いてるか横目で確認するも、空風さんは特に気にする様子無くタブレットにペンをはしらせている。

 俺が二人きりを意識しすぎているのかな。いやデートとかでは無いのだけど。

 とはいえ相手は女性な上に後輩。男として、先輩として提案をした方がいい……のか?

 いかんせんネットで人生を紡いできたような人間である俺は、この手の対応が分からない。リアル人生経験値が圧倒的に不足している!

 こんな時は……。仲間の力を借りるしかない!

 SNSを確認する。……どうやらその同志は、SNSを見た感じは暇してそうだ。

 いつの間にか最寄りの駅に着いた俺たち。空風さんはこちらを向いてタブレットに入力しようとしていたので、差し込むように俺が両手を合わせて頭を下げる。

 

 「…あっ空風さん! ごめん! ちょっとそこのトイレ行って来るから待っててもらっていいかな?」 


 空風さんは快く頷き、ベンチを指さす。多分あそこで待っていてくれるのだろう。

 俺は彼女がベンチに座ってスマホをいじり始めたことを確認すると、トイレではなく陰でSNSの個別メッセージをとある人に送る。


 『すまん。至急確認したいことがあるんだけど。

 大阪で、大阪城から近いスポットでお洒落なカフェとかある?』

 


 そう送ると、数秒で既読が付き、少しして返信が送られてくる。


 『え、今大阪城にいるの? 』

 『その最寄りの駅』

 『マジか。草。てか彼女と来てるの?』

 『ミウミウとは来てないよ職場の後輩とだよ。』

 『どうしてましろさんの中では彼女=ミウミウなのかはスルーしておくのだよ』

 

 俺の嫁はミウミウだけだぞ!

 

 『至急なんです。今度オフ会でもあったときなんかおごるから!』

 『いや。それはいいのだよ。てかちょうどよかったね』

 『なにが?』

 『いや、今うちもその駅にいる。どこにいるの?』

 

 は? え、いるの?あなた? 

 俺は困惑したまま、地図アプリを起動して現在地を表示、スクショして送る。


 『近くて草。今向かう』

 

 マジで言ってんの?

 とりあえず、空風さんに、電話来たので少し遅れますと、メッセージを送って待つ。可愛らしい了解のスタンプが来たのと同時に、肩をポンと叩かれる。

 振り返ると、そこには、低めの身長にはやや不相応なぶかぶかの水色パーカーを来た人物が片手を軽く上げた。

 

 「……マジでいるやん」

 

 未だに困惑する俺を尻目に、その人はややドヤ顔でヘアピン……ではなく頭に付いている方位磁石に指をあてた。


 「いるって言ったのだよ」

 

 この人の名前は【いまひる】。俺と同じく『かぜのミウ』を推しとするリスナー組、『ミウ愛し隊』の一人にして、主にリスナー同士でのオフ会などの企画・幹事を務める凄い人だ。ミウミウからはキャラバン隊長と呼ばれている。

 旅行好きなため、愛し隊のなかでも活動範囲は桁違いに広く、多分海外以外ならだいたいオフ会開催できるのはこの人のお陰まである。あまりにも軽いフットワーク、俺でなきゃ見逃しちゃうね。ちなみに性別は不明だ。

 俺以外の愛し隊は個性豊かな人が多い気がするな…。

 

 「で、ましろん。知りたいのはここから近いお洒落なカフェだっけ? 職場後輩とのデートとか、少しイライラするのだよ」

 「この間一緒に遊びに行って風邪を移されたこと忘れてないからな」

 「うっ……。おすすめスポット教えるから。許せましろ。」

 「いや怒ってないよ。ネタにはちょこちょこするけど」

 「おい」


 ジト目でこちらを見ながらも、いまひるさんはメッセージでマップと経路を送ってくれた。

 

 「ここからならハルカスがおススメなのだよ。カフェもそうだけど、展望台も滅茶苦茶いいし、百貨店もあるから大体揃う。お酒とかもね。ちなみに…」


 説明の続きをされかける中で、ミウミウがSNSで愛し隊のつぶやきにいいねをし始める。

 

 「待ってミウミウが朝以降動いた可愛い」

 「おっとましろんのいつもの始まったな」

 「ちょっと待って! 俺の新幹線からの富士山だよつぶやきにいいねついてる!」

 「帰っていい?」

 

 いかんいかん。ミウミウ成分不足でつい。気を付けねば。おちつけましろステイクール…良し!

  

 「ハルカスってオススメなんだ。酒蔵とかもいきたいんだけど」

 「大阪の有名おすすめスポットは残念ながら、大体が酒蔵から遠い場所にあるのだよ。いや、どうしてもって言うならアレだけど。」

 

 酒蔵のチョイス理由が、後輩のデートのために切り離す目的でとは言えない。

 とはいえ、空風さんも結構乗り気だったしな……。

 

 「大阪には、海遊館っていう世界最大クラスの水族館もあるぞ。ミウミウ水族館大好きだから行くのもアリだと思うのだよ」

 「ちょっと海遊館行って来る」

 「落ち着いて?」

 

 『ねぇましろさん見て! ジンベエザメ!おっきいね! あ、クラゲ可愛い!……ねぇ、ミウミウばっかり見てるじゃん』

 『ごめん、あまりにもミウミウが可愛くて。』

 『もー! せっかく来たんだから一緒に見ようよ! ……言葉は、嬉しいけど恥ずかしいんだから』


 加速する妄想デート。なんだかミウミウとデートしてる気がしてきたな。

 

 「戻ってこいましろん」

 「はっ…いま隣にいたミウミウは?」

 「10秒くらいの沈黙で脳内デートするのやめてもろて」

 「あっすみません……」

 「いや、いつも通りで安心したのだよ。てか、相手待たせてるだろうから、ハルカス向かうのだよ。いきないきな」


 持つべきものはやはり愛し隊だなぁ。『いままし』結成のときか?


 「……確かに、これ以上は申し訳ないから行くよ。ありがとういまひるさん。」

 「旅行ついでだしいいのだよ。次のオフ会でもよろしくなのだよ」

 「オーケー! 来年は北海道と沖縄かな?」 

  

 冗談半分にそういうと、いまひるさんは若干遠い目になる。

 

 「もう来年の話をしている……ましろん、恐ろしい子。あ、ましろんに大阪のスポット聞かれたこと呟いとこ…」

 「それはまぁ、いいけど、個人情報流さないでね?」

 「オーケーオーケー。えーと今日のましろんの服装は」

 「やめやめろ」


 いまましは本日をもって解散です。本当にありがとうございました。


 「冗談なのだよ、はよいきな。ついでにいまひる的デートスポットもいくつか載せておこう。」


 いまひるさんから離れ、空風さんがいるベンチに向かう。

 空風さんは、スマホに目線を落としていたが、面白いことがあったのか、くすりと可愛らしく微笑んだ。

 俺のスマホの通知の音が鳴ると、空風さんはこちらに気が付き、ハッとした表情を浮かべてスマホをサッとしまう。

 すかさず文字が書かれてたタブレットを見せられる。どうやら用意していたようだ。

 

 『おかえりなさい』

 「ごめん遅くなった!本当に申し訳ない!」

 『大丈夫です。場所は、決まりましたか?』

 「うん。ここからなら、ハルカスに行こうかなって。カフェとか展望台あるらしいし。カフェで休んだら展望台とか回らない? ……勿論、空風さんが良ければなんだけど」

 

 ……待ってやっぱりデートなのでは? こんな綺麗でかわいい後輩と?

 カフェでお茶くらい友達ともするから!

 誰にしてるのか分からない言い訳をしているなか、空風さんは優しく微笑んだ。


 『一緒にまわれるの、楽しみです。さっき調べていたんですが、酒蔵はおすすめスポットから外れてるので、今日は辞めて、代わりに色んな所にいきたいです!』

 

 空風さんのなかでは、酒蔵よりスポット巡りのほうが興味がわいたらしい。

 良かった。宮本さんといまひるさんから送られてきてるデータも役立てられそうだ。

 

 「了解。じゃあ、いい時間だし、行こうか」

 「はい! 」


 嬉しそうに駅に歩く空風さん。

 ふと通知を確認する。

 みうみうがSNSで誰かのつぶやきをいいねしている。


 『今ましろんから大阪のスポット聞かれたけど、ハルカスと水族館勧めておいた。

 デートスポットとしてもいいせいか、ましろんはミウミウとのデート妄想してた。

 結果報告楽しみにしてるのだよ』

 

 いまひるさん…デート妄想はカットしてよ!

 俺のクールイメージが崩れちゃうだろ!

 

 

 

 




 

 




 

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