第1話 魔王 セシリア・ロードバルク
魔王、セシリア・ロードバルク、彼女には夢があった。
それは、魔王というハリボテの肩書を捨て田舎で平穏な暮らしをすることだ。
「はぁ、逃げたい...。」
書斎にて少女は一人呟く。
彼女は、曾祖父の代から代々受け継がれてきた魔王という肩書きを背負い民の暮らしを担っている。
そのため、民の暮らしを守る者として職務を放棄して逃げ出すことなど彼女の性格が許さなかった。
だが...
「私、このまま死ぬまで魔王として生き続けなきゃいけないのかなぁ...。」
彼女の憂鬱をわかる者などこの世に存在しない。勇者以外は.。
代々勇者というものは、魔王と同じく数奇な運命を辿る事になる。
「一つ前の勇者は、確か王国の暗躍によって殺された可哀想な子だったなぁ。まだ若かったのに、今度の勇者はどんな子なんだろ...う...!」
セシリアは考えた。勇者を使えば魔王を、魔王というハリボテの肩書きを捨てる事ができるんじゃないか?と。
「勇者に殺されたフリをすれば良いんだ。そうだよ...。いや、そしたら...民はどうなる。」
彼女の危惧している民というのは、彼女と同じ人間だ。
人間な事には変わりないが、王国では忌み嫌われる存在、魔力持ちと呼ばれる者達の事をいう。
そしてその魔力持ち達の頂点に立つものを人々は「魔王」と呼ぶ。
要は、魔王といっても少し異端の力を持った人間なのだ。
「さぁ、どうしよっか...。勇者に殺されるフリっていう所だけはいい作戦だと思うんだけど、魔王が討たれたってなると民が暴走して王国と戦争、ってなりかねないしなぁ。」
現在の魔王、セシリアは戦争を嫌う。
先代、ルードニア・ロードバルクもまたそうだった。
そのため、王国とは不戦の契りを交わしていた。
だが、王国側はそれを勝手に放棄し、神託で選ばれた奇跡の子、「勇者」と呼ばれる者達を送り込んできたのだ。
本来なら戦争になる場面だが、先代は戦争をしようとはしなかった。
それは、何故か。
答えは簡単なもので、民の為だというのだ。
戦争を行えば、様々な死傷者が出るだろう。と、それと比べれば勇者が攻め込んで来る程度、どうということはないと先代は言った。
だが、先代、、、私の父はその勇者によって殺される事になる。
「はぁ、、、勇者ねぇ...。」
勇者、、、。
それは王国の象徴であり、王国の宝である。などと言われているが、実際は王国の駒、道具にしかすぎない。
負ければ国に殺され、勝ったとしても国に殺される。
何故か?
それは、勇者という存在は王国にとって、いや国民にとって平和の象徴。
その勇者が王国を謀った際に、王国は大きな被害を被る事になるだろう。
そのため、危険分子になり得る勇者を、勇者としての仕事が終わった上で生かしておく意味がないのだ。
逆に王国側がリスクを負ってしまうから。
その様な理由で、王国はこれまで数々の勇者を殺してきた。
先代を殺した勇者もそうだった、、、。
セシリアの身に宿っていた復讐心は、勇者の死によって空虚なものにされた。
「はぁ...。」
最近溜め息が多くなってきた事を気にするセシリアは、闇の中に消えていく。
コミュ症勇者に魔王様が優しすぎる件について 蜂乃巣 @Hatinosu3268
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