第64話 記述にない?
国王陛下を救った事になっている上に侯爵令嬢を助け、しかも瀕死の重傷を受け五日間も生死を彷徨った、ビッグイベントにもかかわらず、レクスオール戦記にはこの事に関する記載は一切ない。
記憶を探ってみてもこれは間違いのない事だ。
もし一行でもそのような記載があれば命に関わる事なので、俺が忘れるはずはない。
俺はこの事にすぐ二つの可能性に思い至る。
ひとつは陛下が表に出さないと言っていたので、レクスオール戦記でも記さなかった。
もうひとつは、ラティスが重傷を負ったので、都合の悪い部分はふせた可能性。
まあ二つ目については重傷を負ったのは俺で、本物のラティスではないので可能性は薄いかもしれないが、問題はそこではない。
ラティスに起こった、命に関わるような重要な出来事でもレクスオール戦記に記載されていない可能性が出てきたという事だ。
今までは、レクスオール戦記をなぞる事で、絶対絶命ともいえる状況でもどうにか無傷で乗り切る事ができていたが、今回の件は記載がなかった。
記載がない出来事が起こった結果がこれだ。
俺はあっさりと死にかけた。
つまり、レクスオール戦記には載っていない出来事で死んでしまう可能性が出てきたという事だ。
これは俺にとっては死活問題。
とんでもなくまずい。
「あ〜どうすればいいんだ。こんなのが続いたら絶対死ぬな」
とにかく、普段から慎重に生活を送るしかないが、今の俺は誰よりも弱い。
誰も死ななかったあの場で俺だけが瀕死の重傷。
俺はもっと強くならないといけないのは理解しているけど、それがままならないんだよなぁ。
いずれにしてもすぐに動けるようにはなりそうになかったので、言付けをお願いしてギルバートには先に領地に帰ってもらいユンカーだけヴィレンセ侯爵のお屋敷に残ってもらった。
それからどうにか動けるようになるには二週間を要したが、ずっと王宮内にいるわけにもいかないので、動けるようになると同時にヴィレンセ侯爵家の屋敷へと戻った。
戻る際には、ありがたい事に、フェルナンド様とアリューレが馬車で迎えに来てくれた。
「わざわざありがとうございます」
「ラティス〜〜。死んじゃうかと思った〜。無茶してラティスのバカァ」
「アリューレ……痛い」
俺が王宮出ると、アリューレが泣きながら抱きついてきた。
アリューレに抱きつかれるのは嬉しいが、フェルナンド様の前ではまずい。
そして何より痛い。
まだ完全に閉じたわけではない傷口が開きそうになる。
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