第65話 真の恩人?

「アリューレ、気持ちはわかるがラティス君は病み上がり。そのくらいにしておきなさい。それ以上やるとまた倒れてしまうよ」

「お父様」

「ラティス君、無事で本当によかった。その怪我も陛下とアリューレを庇っての事と聞いている。私もあの場にいて何もできなかった。アリューレの父として心よりお礼を言わせてほしい。本当にありがとう。これで二度もアリューレの命を救ってもらった事になる。ラティス君には返す事のできない大きな恩ができてしまった。私は君にどのように報いたらいいだろうか」

「フェルナンド様にはずっとお世話になりっぱなしなので、恩とかそういうのはやめてください。咄嗟に身体が動いてしまっただけのことですから」

「ラティス君、君という人は……アリューレわかってるね」

「はい、お父様」


咄嗟に身体が動いてしまっただけなのに、侯爵様に返せない恩とか言われてもこちらも困ってしまう。

何よりアリューレの元気な姿を見ると無事で本当によかったと思える。

ただフェルナンド様とアリューレのやりとりは少し気になったが聞いていいものか判断に迷ったので触れずにおいた。

俺達はそのまま馬車に乗り屋敷へと向かったが侯爵家の馬車をもってしても、振動と衝撃を抑え切る事はかなわず、背中の傷に激しい痛みを伴い危うく傷口が開いてしまう所だった。

道中何やら二人が話しかけて来てくれていたが、痛みに耐える事に必死でほとんど聞き取る事ができず、どうにか相槌をうつのがが精一杯だった。

我慢の末にようやくヴィレンセ侯爵家に着くと、ヴィクトリア様、ミラルダ様そしてユンカーも熱烈に迎え入れてくれた。

ヴィクトリア様が、御礼を言いながら抱きついて来た時には、大人の女性の抱擁に恥ずかしいやら、痛いやらで本当に大変だった。


「ラティス君、あなたは私の大事な娘を護ってくれた真の恩人よ。フェルナンドその場にいたのに。ねえフェルナンド」

「それを言われると返す言葉がないよ」


こんなやりとりがありながら、屋敷へと入りようやくひと息つくことができた。

侯爵家も休まるところではないが、王宮に比べると幾分寛げるので、傷が早く治る様に静養させてもらおう。


「ラティス様、この度は獅子奮迅のご活躍。このユンカー、レクスオール準男爵家の郎党として鼻が高いです」

「そういうんじゃないんだけどなぁ」

「公表はされておりませんが市中にも漏れ聞こえている物もあり、その全てがラティス様を讃える言葉です」


漏れ聞こえるって、機密中の機密の気がするけど、この時代はこんなもんなのか?

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