第36話リティア・レクスオール?

しばらくの間ゆっくりと過ごせたお陰で、内股の痛みも完全に取れ普通に歩く事ができているが、そんな事より俺には幾つかの心配事がある。

レクスオール戦記の記述によると、ラティスはこの後の戦いを越えて准男爵へと叙爵される。

士爵はあくまでも騎士の称号であり貴族ではない。

平民が士爵となるのにとんでもなく高く厚い壁があるように、士爵から貴族である准男爵へと陞爵されるにも想像を超える壁がある。

つまり次の戦いは、その壁を飛び越える様な戦いがあり、そこでラティスは功績を残したという事だ。

これまでの戦いもとんでもなかったが、それを超える戦いが近いうちにあるという事だ。

そしてもうひとつの悩み事はラティスは結婚して子供を残したという事。

子孫の俺が生まれたのだから、当たり前といえば当たり前だが、辺境伯となったラティスには三人の伴侶がいた。

貴族の特権というか義務で複数の女性と婚姻を結んでいたのだが、よくよく思い出してみると第三夫人の名前がリティア・レクスオールだったのだ。

本当に数日前まで気が付かなかったのだが、リティアという名前。

リティアだ。同じ名前の別人という可能性もゼロではないが、今俺の周囲にいる女性はリティアただ一人。

そこから導き出される答えはただひとつ。リティア・レクスオールはリティアだ。

その事に気がついてから、リティアに対してどういう態度で接していいかわからなくなり、かなり挙動が不審になってしまっている。


「リ、リティアさん、おはよう。今日はお日柄もよく」

「ラティス様、お疲れなのですね。一昨日くらいから少しおかしいです。私のことはリティアでお願いします」

「あ、ああ、そうだね。リティア」

「お疲れのラティス様には栄養のあるものを作らせていただきますね」

「栄養のあるもの……」


ダメだダメだ。リティアは純粋なる好意で俺を心配してくれているだけだ。

決して変な意味ではない。俺が過剰に反応しているだけだ。

だけど普通に考えて、この歳で奥さんになる人が目の前にいたら過剰にもなるだろう。

しかもリティアさんはかなりの美人さんだ。意識するなというのが無理というものだ。

それも第三夫人って、ラティスどれだけ頑張ってるんだ。

リティアさんだけで十分だろう。

俺の時代でも上位貴族であれば複数の伴侶を娶っていた人はいたけど、末端の俺の家ではあり得ないことだ。

将来の第三夫人との正しい付き合い方なんかわかるはずがない。

せっかく戦いを終えて、この時代に来てゆっくりとした時間が持てているというのに気持ち的にはさっぱり安らがない。


「リティアは、男性に何を求めるのかな」

「ラティス様、いきなりどうなさったのです」

「いや、一応同じ屋敷で生活してるわけだし、色々と知っていた方がお互いに快適に生活できるんじゃないかと思って」

「本当に、その様な気遣いは不要なのですが。そうですね、私が男性に求めるのは男らしさと優しさでしょうか」

「男らしさと優しさか」

「はい、やはり女性というのは男性には引っ張ってもらいたいですし、どうせなら優しくしてもらいたいものです」

「そう、わかった」


正直男らしさと言われても自信はないが、できるだけ努力はしてみよう。

ただ、それはこれから起こる戦いを乗り越えてこそだ。

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