第35話戦いのあと


これほどの戦いだったにもかかわらず、この戦いはレクスオール戦記の中では僅か数行記されているだけの、ほぼおまけ。年表だけの扱いのような戦いだった。

いったい、ラティスはどれほどの戦いを越えて南部の覇者となったのか文字だけでは計り知る事はできない。

こうして、俺は奇跡的にベリンガムとの戦いを切り抜ける事ができたが、今回はベルメール男爵ではなく直接レクスオール領へ攻め込んできた為、降したベリンガム領は、そのままレクスオール領に組み込まれることとなった。

領地が広くなって足りなくなった人出は、ベルメール男爵からいただいた、リクエ軍の兵達二百で賄う事となった。

それと同時にラティス・レクスオールは正式に爵位を継いだ士爵として認められた。

領地のことは俺ではよくわからなかったのでビルドワースさん達にまかせておいたが、きちんとやってくれたようだ。

ビルドワースさんに聞くと、この領地の広さは完全に士爵家の範疇を超えているとのこと。

ただし、兵の数は併合したベリンガムの残兵四十を加えても三百を超える程度で士爵家でも中程の数だそうだ。

つまりは、少ない兵の数で広い領地を運営していくことになってしまったわけだが、思いの他ビルドワースさんはじめ脳筋軍団が優秀で、実務的な事も卒なくこなしてくれている。

そもそも、何の経験も無い俺がいきなり領地経営なんか出来るはずもなく、椅子に座ってサインだけしておけば後はみんながやってくれている。

また、急に専従の兵士が増えて大丈夫なのかと心配したが、ベリンガムを接収した事で、岩塩をはじめレクスオールには無かったものがスムーズに流通する事となり、それなりに潤っており問題はないとのことだった。

そして、最大の恩恵ともいうべき変化が一つあった。

それはスープの味が濃くなったのだ。

リティアの作ってくれる食事はもちろん旧レクスオール領内の食事処では、どこに行っても以前より確実に味が濃くなった。

安く塩が流通しはじめ、付随してそれ以外の香辛料も使われるようになったからだ。

具材はともかく味に関して言えば、もとの時代とそれほど変わらないところまできている。

毎日のことなので、これには本当に助かった。

お陰で、最初の頃よりも少し肉付きが良くなったようで、伸びた髪と、焼けた肌と相まってラティスと生写しだとギルバートさんに言われてしまった。

リティアを含め誰にも疑われているようにはないので、俺とラティスは本当に似ているのかもしれないと最近思いはじめたが、たとえ外見が似ていたとしても中身はあくまでも俺だ。

英雄と呼ばれたラティスとは比べるべくもない。

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