第14話 賢明な判断?

「はっ、ラティス・レクスオール様。あなた様に拾われたこの命、あなた様に捧げます。いかようにもお使いください」


突然グラディスは俺の前で跪くとそう申し出てきた。


「それは、まあ、ありがたいんだけど」

「はっ、このグラディス、この命尽きるまでレクスオールと共に歩む所存です」

「いや、それは俺の一存では……」

「必ずや力になります」

「だけど」

「もうラティス様しかおられません」

「ベルメール男爵に聞いてみる」

「はっ」


この人なんでこんな感じになってるんだ。助かったんだし張り切るのはわかるけど、それにしても熱量が半端じゃない。それに強面の癖に感極まったような表情を浮かべていて結構怖い。


「これからレクスオールも忙しくなる。其方の働きにも期待しているぞ」

「ハハッ」


ギルバートさんが一声掛けると、グラディスはその場を後にした。


「さすがはラティス様。グラディスめラティス様に心酔している様子。降した相手からあのような信を得られるのはそうあることではありません。このギルバート感服いたしました」


グラディスのあの態度、そういう態度だったのか? 怖すぎて全く真意が伝わってこなかった。


「それでは早速ベルメール男爵様の下へと参りましょう」

「え!? 俺が行くの?」

「もちろんです。今はあなた様がレクスオールの主人なのですから」

「いやだけど、ベルメール男爵にバレ……」

「大丈夫です。ラティス様がベルメール男爵様に会われたのは出陣式の一度のみ。他の寄子も多数おりましたので絶対に大丈夫です」


ギルバートさん、サラッと言ってるけど圧が凄い。

ギルバートさんはこう言ってるし、ちょっとならいけるか?

いや、そもそもなんで俺がこのままラティス役を続ける前提で話が進んでいるんだ。


「ラティス様、リクエ軍を率いていくわけにも参りません。ビルドワースと兵五十を残してリクエ軍を見させましょう」

「ああ、そうなんだ。じゃあそうして」


そもそも俺は戦争なんかした事がないのでどうしていいかなんてわからない。

それにビルドワースさんと言われても、ほとんど話したこともないので判断のしようがない。

いや待て。よくよく思い出して見るとレクスオール戦記の中に出てくる登場人物のひとりなんだから能力なり人となりはある程度わかる。

確かビルドワースさんは表だった武よりも裏方や交渉ごとでレクスオールを支えた人だったはず。

なら今回のような戦後の任務には適任ってことなのか。


「わかりました。賢明なご判断かと」


俺の判断というよりギルバートさんの言うままだけど。

その後一通りの捌きが終わり、残りの兵を率いてベルメール男爵軍へと合流を図るべく北上することになった。

既に半日ほど経過しているが、まだベルメール軍は影も形もない。

いったいどこまで下がったのかわからないが、普段あまり乗らない馬にずっと跨っているため内股が擦れてヒリヒリしてきて痛い。

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