第15話 貧乏?

「は〜疲れた〜。これが夢だったらどれだけいいだろう。なんでこんな事になっちゃったんだろう」


ほんの数日前まで俺は普通の生活を送っていたんだ。

戦いなどない世界で、レクスオールの末端とはいえそれなりに裕福な暮らしをしていた。

それがここは何もかもが違う。

ここでは人が死ぬ。

剣のひと振り。飛んでくる矢一本であっさり死ぬ。

レクスオール戦記の主人公であるはずのラティス・レクスオールでさえあっさりと死んでしまった。

俺だって殺されかけた。

有無を言わせず戦場へと駆り出され、訳もわからずグラディスと一騎打ちをさせられる羽目になってしまった。

あの場を切り抜ける事ができたのは奇跡と言っていいだろう。

そもそもなんで斬りつけてきたグラディスの剣が折れたのかもわからない。

折れていなければ確実に次の一太刀で殺されていただろう。

あまりに突飛な事が起こりすぎて、ずっと気を張り詰めていたがこうしてひとりになると全身に疲労が押し寄せてくる。


『ぐ〜っ』


ああ、お腹が空いたのか。戦場ではなにを食べても味がせずほとんど口にする事はできなかったので空腹も感じなかったが、さすがにお腹が空いてきたようだ。


「そろそろ食事にしない?」

「そうですね。そろそろいい時間かと」


俺の言葉で、その場に留まり食事を摂ることになった。

用意されたのはわずかばかりの野菜が入ったスープとパンだけだが、お腹の空いた俺には待ちきれない。


「それでは、いただきます」


早速スープを掬って口に運ぶ。

空きっ腹に染みるがほとんど味がしない。まだ緊張が解けていないのかとも思ったが、どうもそうではなく本当に味が薄いようだ。

次にパンを食べてみるが、かなり硬いのでスープに浸して食べる。

行軍中なので贅沢は言えないが思わず口にしてしまう。


「このスープとパンは行軍中だからなのか?」

「はい! 戦に勝ちましたのでいつもよりも少し贅沢しております」


料理を運んでくれた兵士が答えてくれる。

これでいつもよりも贅沢なのか。

たしかに周りに目をやるとみんな嬉しそうに食事を口に運んでいる。

もしかしてこの時代のレクスオール家は貧乏なのか?

それともこれがこの時代の標準なのか?

いずれにしても俺の食べてきたものよりも明らかの薄味でパンは硬い。

レクスオール戦記が始まる時代。それは群雄割拠の時代とも言われる。

王の力は弱まり、文官貴族が取りまとめる貴族院が政治的に力を持っていたが、その一方で各領地を治める貴族たちが己の領地を拡大すべく凌ぎを削り侵略を繰り返していた時代。

その中で小騎士領主だったラティス・レクスオールは南部を統一して世に安寧をもたらし辺境伯位を冠するに至ったのだ。

辺境伯と爵位はついているが、つまりは南部の支配者となったのだ。

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