第12話 天の使い?

「ラティス様、眼を覚まされましたか。心配いたしましたが、大事無いようで安心いたしました。ああ、ご安心ください。リクエ軍は全員ベルメール軍へと降りました」

「ああ、それじゃあ終わったんですね」

「何をおっしゃいますか。まだ終わりではございません。ベルメール男爵様にご報告し、降ったリクエ軍の処遇も残っております」

「そうなんだ」


まあ、俺の役目は終わったし関係のないことだ。

それよりも問題は、ここでどうやって生きていくかだ。

どうにか元の時代に帰れればいいが、どうやってここに来たのかもわからないのに帰りかたなんか全く検討もつかない。

考えて見ればお金も何もない。そもそも住む場所さえ無い。お先真っ暗だ。

まさか自分が時間跳躍なんかするとは夢にも思わなかった。

今回の代役で僅かばかりでも先立つものをもらえないだろうか。

運とはいえ、俺もかなり頑張ったはずだから、恩賞を貰えてもおかしくは無いんじゃ無いか?

お金さえもらえればなんとかなるか?

いや、だけどなぁ。


「ラティス様、つきましてはリクエ軍の処遇についてですが」

今後の事に想いを馳せているとギルバートさんが思いもよらない事を言ってきた。


「いや、ちょっと待ってください。それは俺には関係ないことでは……」

「ラティス様があれほど高らかに宣言なさったではないですか。共に歩もう。共に駆け、共に羽ばたこうと」

「い、いやあれは……」

「ラティス様、このギルバート感服いたしました。ラティス様こそこのレクスオールの旗頭。星にございます。リクエ軍の筆頭騎士を単騎で退け、瞬時に敵の大将を見つけて、策を授けるその慧眼。そして敵であるリクエ軍をも心酔させるその度量。どれをとっても英雄のそれ。まさにグリフォンの化身にございます」

「え!? いやなにを言ってるんですか? だって俺はラティ……」

「ラティス様! あなた様はラティス・レクスオールその人でございます。何人たりともその事に異を唱えることなどありません。数で勝るリクエ軍を看破し、併合し得たのはひとえにあなた様のお力によるもの。ラティス様あなた様こそラティス様にございます」

「そんなバカな……」


目が覚めた途端ギルバートさんが無茶苦茶を言い出してしまった。

いったいどうなっているんだ。


「いや、だってラティスは今回だけだって」

「これはここにいる五名全員の総意でございます。あなた様をおいてレクスオールの主人は他におりません」

「そんなバカな。だって俺はレイシアだよ」

「そのような御仁は元からおりませぬ。周りの者にも確認しましたが、レイシア・ガルティナなどという者はおりません。あなた様は天からの使い。ラティス・レクスオールその人でございます」


それは、レイシア・ガルティナはこの時代の人間じゃないんだから周りの人に聞いても知っているはずはない。

だからといって俺が天の使いって、あり得ない。


しかもラティスって、そういえば本物のラティスはどうなったんだ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る